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1.3.1 熱力学第二法則

熱力学第二法則も第一法則と同様に、成り立つことを前提として熱力学が展開され、現在まで実験的に正しいとされている。熱は自然な状態では温度の高いところから温度の低いところへ伝わる。これが熱力学第二法則である。高温物体から低温物体へ熱が伝わる現象は、低温物体から高温物体へは熱が伝わらないため、不可逆な現象である。熱力学第二法則は熱の伝わりが不可逆であることを表している。可逆と不可逆については付録A.1(p. [*])に示す。

クラウジウスの原理では 「ある温度の物体からそれより高い温度の物体へ熱を移すだけで、ほかに何の結果も残さないような過程は実現不可能である」 と表現される。高温の物体と低温の物体を接触させて、高い温度の物体から低い温度の物体へ熱を移すだけで、ほかに何の結果も残さないような過程は簡単に実現できる。しかし、高温物体と低温物体を接触させて、低い温度の物体から高い温度の物体へ熱を移すだけで、ほかに何の結果も残さない過程は実現不可能である。高温物体と低温物体の間にヒートポンプを設置し動作させると、低い温度の物体から高い温度の物体へ熱を移すことができるが、ヒートポンプを動作させるためには仕事が必要である。この際は熱を移すだけでなく、外部からヒートポンプへ仕事を与えたという結果を残すためクラウジウスの原理に反しない。

トムソン(ケルビン卿)の原理では 「一様な温度をもつ一つの熱源から熱をとり出しこれを仕事に変換するだけで、ほかには何の結果も残さないような過程は実現不可能である」 と表現される。ある温度の物体とそれよりも低いもしくは高い温度の物体の間で熱機関を動作させると、高温から低温へ伝わる熱の一部を仕事として取り出すことができる。しかし温度差のない一つの物体から熱を取り出し仕事に変換するだけで、他には何も結果を残さないような過程は実現不可能である。このトムソンの原理に反する装置があり、それを例えば船に載せたと考える。この時、このトムソンの原理に反する装置は、一様な温度を持つ物体である周囲の海水から熱を取り出し、仕事に変換し船を動かすことができる。船が停止すれば、船にされた仕事は全て熱として海へ戻るので、エネルギーは保存され熱力学第一法則には反しない。このようにトムソンの原理に反する装置があれば、燃料を使うことなく周囲の海水や大気から熱を取り出すことで乗り物を動かすことができる。しかし、トムソンの原理に反する装置が存在する可能性は今までに示されていない。 一定温度の環境下でピストンを引いた際には一つの熱源から熱を取り出し、仕事に変換することができる。この際、一定温度の環境は一つの熱源と考えることができる。このように、一つの熱源から熱を取り出して仕事に変換することは出来るが、過程の前後で状態が変わってしまう(ピストンの位置が違う)ため、“ほかには何の結果も残さない”ことにはならない。

付録A.2(p. [*])にクラウジウスの原理とトムソンの原理の関係を示す。


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