条件1で示したように断熱された系が可逆変化した場合、エントロピー は変化しないように定義したい。可逆断熱変化でのエントロピーの変化を とすると条件1は次式で表される。
条件2の不可逆の変化で増加する性質を考える。熱が関わると現象は不可逆となる 3.7(1.3.2節 )。 熱力学第二法則クラウジウスの原理(1.3節 )に定義されるように低温から高温へ他に影響を及ぼさず熱を伝えることはできない。温度差がある物体間で熱が伝わる場合は必ず不可逆となる(温度の高い物体から低い物体に熱は伝わるが、温度の低い物体から高い物体へは熱は伝わらない)。熱が発生する場合も不可逆である。例えば、系の内部で流れがある場合には運動エネルギーが粘性消散3.8により熱となるが、逆に渦が発生することはない。多くの場合で力学的エネルギーが不可逆的に内部エネルギーへ変化し、発生した熱が多い場合は不可逆な変化がより大きい。そのため、熱量 [J]とエントロピーの変化量 が比例するように条件2は次のように表される。
条件3の全体は断熱された系の内部に複数の系があり、内部で熱のやり取りのある場合を考える。ここでは内部の系として、高温熱源の系と低温熱源の系3.9、カルノーサイクルがあり、図3.4のように全体として断熱されているとする。 高温物体と低温物体の間で可逆サイクルであるカルノーサイクルを用いると、高温熱源から低温熱源へと熱が伝わる際に仕事を取り出し、逆の過程では仕事を与えて低温熱源から高温熱源へ熱を伝えることができる。カルノーサイクルではこのように仕事が作用することで可逆の過程で熱を伝えることができる。 カルノーサイクルの過程は可逆であるので、条件3(複数の系で条件1)が成り立つように、サイクルが動作しても全体としてエントロピーが増加しないようにエントロピーを定義したい。サイクルでは一サイクルの初めと終わりの状態が変わらないため状態は変化せず状態量も変わらない。エントロピーも一サイクルの始めと終わりで同じ状態となるため、カルノーサイクルを含む全てのサイクルは一サイクル中でエントロピー は変化しない。
ここで式(3.4)のようにサイクルのエントロピー変化はゼロであるので変形して次式となる。
条件1条件2を満たすために、式(3.2)と式(3.3)の両方を満たし、条件3を満たすため可逆サイクルであるカルノーサイクルを含む系でエントロピーが変化しない(式(3.5))ように、エントロピーの定義をしたい。 カルノーサイクルでの熱源とやりとりをする熱と温度の関係は、式(1.33) より熱源1を高温熱源、熱源2を低温熱源とすると以下の式で表される。
(1.33) |
図3.4に示す系で、高温熱源と低温熱源が有限の大きさであれば、カルノーサイクルから熱をやりとりすることで温度が変わるため、等温変化とならない。しかし、等温変化と見なせるように、熱源の温度の変化が十分に小さくなる微小な熱量 [J]が高温 [K]の系からカルノーサイクルへ伝わり、微小な熱量 [J]がカルノーサイクルから低温 [K]の系へ伝わったときを考える。高温の系で微小な熱量 [J]3.10による微小なエントロピーの変化 [J/K]は次式で表される。
低温の系で微小な熱量 [J]3.11による微小なエントロピーの変化 [J/K]は次式で表される。
この状態で、カルノーサイクルでの温度と熱量の式(1.33)から次式のように高温の系でのエントロピーの減少量と低温の系でのエントロピーの増加量が等しくなる。
十分に小さな変化であれば、温度の変化も小さく等温過程と見なせる。十分に小さい可逆変化での [J]により、次式のようにエントロピーを定義する。
(3.7) |
2.3.2節 で示したように、準静等温過程であれば、 [J]は内部エネルギーの変化量と前後の状態によってのみ決まるため、エントロピー [J/K]も前後の状態で変化量が決まり、状態量であると言える。