この章では熱と仕事とサイクルについて述べる。仕事は容易に熱に変換できるが、熱は仕事に変換しづらい。また、熱が関わると現象は不可逆となる。この熱から仕事へ変換する機械が熱機関であり、熱力学の成立の背景には熱機関の効率を良くするという目的があった。熱機関は、蒸気を利用した蒸気機関車や、現在では火力発電所や原子力発電所で利用され、高温熱源(燃料の燃焼など)と低温熱源(多くの場合、大気や海水)の温度差で熱を伝える際に仕事を取り出す機械である。蒸気機関車であれば、機関車が仕事をされ速度が上がる(運動エネルギーが増える)。火力発電所や原子力発電所では、タービンが仕事をされ回転する運動エネルギーが増え、回転の運動エネルギーが電気エネルギーへと変換される。 また、逆の働きをする機械としてヒートポンプがある。ヒートポンプは冷蔵庫や冷凍庫、エアコン(暖房・冷房)に利用されており、仕事を与えられ低温熱源から高温熱源へ熱を伝える機械である。冷蔵庫では、庫内の低温の空気から室温の室内空気に熱を伝え庫内の温度を下げる。エアコンでは、夏季には室内から暑い室外に熱を伝え室内温度を下げ、冬季には寒い室外から熱を奪い室内を温め、快適な環境を作る。
この章では熱力学の第一法則と第二法則(熱の不可逆性)から、二つの熱源間で動作する熱機関やヒートポンプの効率の限界を、理想的な可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)から導いていく。