まず可逆過程について確認をする。可逆過程となるのは可逆断熱過程と準静等温過程のみである(3.2.2節)。可逆断熱過程は発熱もなく熱が伝わることもない過程である。準静等温過程では系と熱源の温度を限りなく近づけ無限の時間をかけて熱を伝える過程である。可逆過程での熱のやりとりは必ず準静等温過程で行われる。
エントロピーは状態量であるので、初めと終わりの状態が同じであれば、どのような経路でも変化量は同じである。そこで、不可逆過程においてエントロピーを考えるために、過程を可逆断熱過程と準静等温過程のみで構成される経路で考える A.3。 どんな過程も可逆断熱過程と準静等温過程で表すことが出来る。例えば、まず過程の終わりの温度となるまで可逆断熱過程で変化をさせる。温度は同じになっているので準静等温過程で圧力が同じになるまで系を加熱(冷却)すれば終わりの状態に出来る。 この経路の準静等温過程の部分でやり取りされる熱を、不可逆過程においてエントロピー変化を計算する際の可逆過程での熱として考えることが出来る。
準静等温過程を先にする経路と後にする経路では熱量が異なるが、エントロピーの変化量は等しくなる。このことを状態Aから状態Bへ変化する過程を例に考える。状態Aから状態Bへ可逆過程で変化する経路として、先に準静等温過程(熱 が伝わる)で状態Cまで変化し後に可逆断熱過程で状態Bへ至る経路1と、先に可逆断熱過程で状態Dまで変化し後に準静等温過程(熱 が伝わる)で状態Bへ至る経路2の二つの経路が考えられる(図A.6)。このそれぞれの経路において必ずしも伝わる熱は等しくならない( )。 この二つの経路を組み合わせて、A→C→B→D→AA.4となるサイクルとすると、初めに考えていた不可逆過程の始点と終点を含む可逆サイクル(カルノーサイクル)となる。
可逆サイクルでは次式が成り立つ。
このように、不可逆過程でも可逆断熱過程と準静等温過程に分けることでエントロピー変化量を求めることができる。