next up previous contents
Next: B.1.3 経路積分 Up: B.1 仕事が状態量ではないのは何故か Previous: B.1.1 仕事の関数

B.1.2 具体的な例

仕事が状態量とならないことを具体的な例で示す。ある閉じた系の体積が3.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ (3.0 リットル)、圧力が1.0 $ \times$ 10$ ^5$ Pa(おおよそ大気圧)である状態1から、体積1.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ (1.0 リットル)、圧力3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paの状態2まで変化させた際の異なる経路での系がされる仕事を計算していく。図[*]に経路ごとの圧力$ P$ 、体積$ V$ 、仕事$ W$ の関係をグラフに示す。

図: 経路による仕事の変化
\includegraphics[width=120mm]{figures/WorkPath.eps}

経路1 体積1.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ まで圧力1.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paで等圧変化(仕事は $ - P \Delta V = - 1.0 \times 10^5 \; \rm {Pa} \times (1.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3} - 3.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3}) = 2.0 \times 10^2 \; \rm {J}$ )、その後、圧力3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paまで等積変化(仕事は体積変化がないので 0 J)で合計の仕事は2.0 $ \times 10^2$ Jである。

経路2 圧力3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paまで等積変化(仕事は体積変化がないので 0 J)、その後、体積1.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ まで等圧変化(仕事は $ - P \Delta V = - 3.0 \times 10^5 \; \rm {Pa} \times (1.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3} - 3.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3}) = 6.0 \times 10^2 \; \rm {J}$ )で合計の仕事は6.0 $ \times 10^2$ Jである。

経路3 圧力2.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paまで等積変化(仕事は体積変化がないので 0 J)、その後、体積1.0 m$ ^3$ まで等圧変化(仕事は $ - P \Delta V = - 2.0 \times 10^5 \; \rm {Pa} \times (1.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3} - 3.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3}) = 4.0 \times 10^2 \; \rm {J}$ )、さらに、圧力3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paまで等積変化(仕事は体積変化がないので 0 J)で合計の仕事は4.0 $ \times 10^2$ Jである。

経路4 体積2.5 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ まで圧力1.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paで等圧変化(仕事は $ - P \Delta V = - 1.0 \times 10^5 \; \rm {Pa} \times (2.5 \times 10^{-3} \; \rm {m^3} - 1.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3}) = 0.5 \times 10^2 \; \rm {J}$ )、その後、圧力3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paまで等積変化(仕事は体積変化がないので 0 J)、さらに、体積1.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ まで圧力3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Paで等圧変化(仕事は $ - P \Delta V = - 3.0 \times 10^5 \; \rm {Pa} \times (1.0 \times 10^{-3} \; \rm {m^3} - 2.5 \times 10^{-3} \; \rm {m^3}) = 4.5 \times 10^2 \; \rm {J}$ )で合計の仕事は5.0 $ \times 10^2$ Jである。

このように状態1(圧力 1.0 $ \times$ 10$ ^5$ Pa、体積 3.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ )から状態2(圧力 3.0 $ \times$ 10$ ^5$ Pa、体積 1.0 $ \times$ 10$ ^{-3}$ m$ ^3$ )への変化において経路が異なれば仕事が異なる。状態量は状態によってのみ決まる量であるので、仕事が状態量であればどの経路でも終わりの状態で同じ値となり、同じ一つの面上に含まれる線で変化しなくてはならない。


next up previous contents
Next: B.1.3 経路積分 Up: B.1 仕事が状態量ではないのは何故か Previous: B.1.1 仕事の関数


この図を含む文章の著作権は椿耕太郎にあり、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に公開する。最新版およびpdf版はhttp://camellia.thyme.jpで公開している。