温度を測定するために熱力学第零法則が必要となる。 測定することは基準と比較することである。図3.1のように、長さであれば定規のような基準となるものと目で見て比較して長さを測れる。質量であれば基準となるおもりと天秤で比べ、釣り合ったおもりで質量が量れる。では、温度はどのように比較をしたらよいだろうか。温度の比較の約束事を決めたのが熱力学第零法則である。
温度の比較は長さや質量と比べると非常に難しい。温度の比較の難しさの一つは基準を複数持ってきても、基準となる値が増えないことである。図3.1のように、長さであれば、0.1 mの基準が2つあれば0.2 m、3つあれば0.3 mを測ることが出来る。質量も秤を使うことで1 kgのおもりが2個あれば2 kg、3個あれば3 kgを測ることが出来る。しかし、温度の場合はそうではない。例えば国際温度目盛(ITS-90)[]で基準温度として使われている24.5561 Kの三重点の状態のヘリウムは1つでも2つでも同じ温度24.5561 Kであり、長さや質量のように2つあれば2倍の温度が測れる訳ではない。
測り方の簡単な手段は身体を使うことである。長さでは手の長さや指の長さと比べる。 温度の比較で、二つの物体の温度を比べる場合、一番簡単な方法は手で触ってみて比べてみることである。比べる物体がこれまでに出てきた熱源のように(図3.2)一定の温度で熱のやり取りをしても温度が変化しないのであれば、手を熱源に入れて手の感覚になじむまで待って比較すればよいので簡単に比較できる。しかし、実際に身の回りにある物体は温度が一定でもないし、熱を受ければ温度が変わる。 つまり、「測定対象の物体の温度が一定ではなく分布がある」こと、「測定機器との熱のやり取りによって温度が変わってしまう」こと、の二つの問題が挙げられる。
先ほどの手で触って比較する際にこの二つの問題がどう現れるか考えてみる。まず温度の分布がある場合に知りたい場所だけではなく周りの影響も混ざってしまうため、手で触る場合には小さくても指の大きさが必要である(図3.3)。温度を比較したい対象がそれよりも小さい場合には比較が難しい。また、測定対象は手の温度と同じとは限らない。手より冷たい温度の物体を触った場合、熱が手から物体に伝わり物体の温度はよりも高く となってしまう(図3.4)。物体がある程度大きければ触ることでの温度変化は小さく元の値に近い温度が計れるが、物体が砂粒程度に小さいものであるとすぐに手の温度と同じになってしまい、元の温度は分からない。このように温度を比較するというのは非常に難しい。 では、どのような状態であれば確実に温度を比較することができるだろうか。温度の違う二つの物体、例えば比較したい物体と温度計を接触させた場合、始めは温度が違うため熱が伝わり比較したい物体も温度計も温度が時間と共に変化する。しかし、長い時間待てば温度差は徐々に小さくなり伝わる熱も小さくなり、十分に長い時間待つと温度差はなくなり熱も伝わらなくなる。このときは物体と温度計は同じ温度となっている、と言えるだろう。このように十分に時間が経って熱が伝わらなくなった状態を熱平衡という。熱平衡になった状態を同じ温度とすると決めたのが熱力学第零法則である。これにより温度を比較することができる。
熱平衡であれば温度が比較できる、つまり熱平衡にあるときのみ温度を測定することが出来るのである。熱平衡にないときは温度が測定できない。測定できない値は使えないため、温度を使うためには対象が熱平衡である必要がある。
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