原文・書き下し文の前の数字と現代語訳の前の数字が異なるため違うこともあるが、原文・書き下し文に対応する現代語訳をすぐ下に載せている。引用文は緑の点線で囲っている。
2023年2月1日 椿 耕太郎
目指すべき君子と対照的な小人の比較がいくつか出てくる。表に一覧をまとめ、後ろに一つずつ記している。全体を通すと、小人像と君子像が見えてくる。
小人とは、目先の表面的な自分の利益しか考えず、人のせいにする。せこせこして驕慢、人の悪いところをあげつらい、群れるのが好きで、おべんちゃら好き。すべてに当てはまる人はなかなか居なさそうだが、一部当てはまる身の回りで思い当たる人を反面教師としたい。
君子とは、社会全体のことを考え、自分のことについては責任をとる。人の良いところに注目し、表面的な付き合いで集まりを作ったりせず、おべんちゃらを求めない。蕩蕩とし泰然としている。すべてはとても無理だが、一部でも目指すことはできるだろう。
君子 | 小人 | |
---|---|---|
徳を思う | 目先のことを思う | 四之十一 |
責任をとる | 利益だけを追う | 四之十一 |
義を見る | 利を見る | 四之十六 |
蕩蕩たり | せこせこ | 七之三六 |
人の美を褒めて、悪い点は触れない | 悪い点に触れて、良い点に触れない | 十二之十六 |
表面的な付き合いはしない | 表面的なつきあいしかしない | 十三之二三 |
よろこばせにくいが人の器に合わせて使う | おだてに弱く、人に無理を要求する | 十三之二五 |
泰然 | 驕慢 | 十三之二六 |
己に求む | 人に求む | 十五之二十 |
四之十一
子曰、「君子懷德、小人懷土。君子懷刑、小人懷惠。」
子曰く、君子德を懷へば、小人土を懷ふ、君子刑を懷へば、小人惠を懷ふ。
一一(七七)
先師がいわれた。
「上に立つ者が常に徳に心掛けると、人民は安んじて土に親み、耕作にいそしむ。上に立つ者が常に刑罰を思うと、人民はただ上からの恩恵だけに焦慮する。」
参考文献(1960吉田)によれば引用している現代語訳のような君子と小人を位で解釈をしているのは李充や徂徠で、新注では君子を理想的な人物像とし君子は徳を思って小人は土地(安住)を思い、君子は儀型礼法を守ろうとするが小人は恩恵だけを願う、としている。もう一つの参考文献(2009加地)でも同様の解釈を採用している。
私も引用している現代語訳の君子を位として解釈するのではなく、参考文献のように捉えたい。
小人は目の前の安定(土地)と目先の恩恵にだけとらわれる。君子は目先のことではなく社会全体の徳を考え、きまりは守り責任をとる。全体をよくすれば、自分の周りも良くなり自分に返ってくる。きまりを守ることも、きまりを守ることで自分が過ごしやすくなる。今のように無駄なきまりが多くあることは問題だとは思うが。
四之十六
子曰、「君子喻於義、小人喻於利。」
子曰く、君子は義に喻る、小人は利に喻る。
一六(八二)
先師がいわれた。――
「君子は万事を道義に照らして会得するが、小人は万事を利害から割出して会得する。」
君子の義はわかりにくいが、小人の利はわかりやすい。小人は目先の自分の利害を考える。この反対だとすると、君子は全体と将来を見据えて考えるのだろう。
七之三六
子曰、「君子坦蕩蕩、小人長戚戚。」
子曰く、君子は坦にして蕩蕩たり、小人は長へに戚戚たり。
三六(一八三)
先師がいわれた。――
「君子は気持がいつも平和でのびのびとしている。小人はいつもびくびくして何かにおびえている。」
日頃のありようも違う。せこせこせずに蕩々としてなくてはいけない。
十二之十六
子曰、「君子成人之美、不成人之惡。小人反是。」
子曰く、君子は人の美を成し、人の惡を成さず、小人は是に反す。
一六(二九四)
先師がいわれた。――
「君子は人の美点を称揚し、助長するが、人の欠点にはふれまいとする。小人はその反対である。」
いいところを褒めて悪いところを注意する。当たり前の対応だと思うけど、残念ながら逆をする小人が少なからず居る。
十三之二三
子曰、「君子和而不同、小人同而不和。」
子曰く、君子は和して同せず、小人は同して和せず。
二三(三二五)
先師がいわれた。
「君子は人と仲よく交るが、ぐるにはならない。小人はぐるにはなるが、ほんとうに仲よくはならない。」
○ 原文の「同」は「附和雷同」の「同」である。
同と和の違い。表面だけ同じように合わせるのではなく、中身を知った上で合わせる。分かったようなそぶりで、話の表面だけを合てくる小人が多い。
十三之二五
子曰、「君子易事而難說也。說之不以道、不說也。及其使人也、器之。小人難事而易說也。說之雖不以道、說也。及其使人也、求備焉。」
子曰く、君子は事へ易くして說ばしめ難し、之を說ばしむるに道を以てせざれば說ばざればなり。其の人を使ふに及んでは之を器にす。小人は事へ難くして說ばしめ易し、之を說ばしむるに道を以てせずと雖も說べばなり、其の人を使ふに及んでは備はらむことを求む。
二五(三二七)
先師がいわれた。
「君子は仕えやすいが、きげんはとりにくい。きげんをとろうとしても、こちらが道にかなっていないといい顔はしない。しかし人を使う時には、それぞれの器量に応じて使ってくれ、無理な要求をしないから仕えやすい。小人は、これに反して、仕えにくいがきげんはとりやすい。こちらが道にかなわなくても、きげんをとろうと思えばわけなく出来る。しかし人を使う時には、すべてに完全を求めて無理な要求をするから仕えにくい。」
ごますりが好きなイエスマンばかりで固める人は小人。君子であれば無理して悦ばせる必要もない。上に立つ人の評価方法がわかる。
十三之二六
子曰、「君子泰而不驕。小人驕而不泰。」
子曰く、君子は泰にして驕ならず、小人は驕にして泰ならず。
二六(三二八)
先師がいわれた。――
「君子は泰然としている。しかし高ぶらない。小人は高ぶる。しかし泰然たるところがない。」
七之三六に似てる。驕にならないことは目指しやすいけど、泰を目指すのは難しい。
十五之二十
子曰、「君子求諸己、小人求諸人。」
子曰く、君子は諸を己に求む、小人は諸を人に求む。
二〇(三九九)
先師がいわれた。――
「君子は何事も自己の責任に帰し、小人は他人の責任に帰する。」
自分のことばかり考えて、当たり前のように人に責任を押しつける小人が多い。そうはなりたくはない。