熱力学第二法則から可逆サイクルの効率と熱力学的温度との関係を明らかにしていく。
可逆サイクルの効率は熱源で決まる
まず、二つの熱源間で動作する可逆サイクルの熱機関効率はどのような可逆サイクルでも常に等しくなることを、二つの熱源間で動作する可逆サイクル(可逆熱機関・可逆ヒートポンプ)の効率(仕事と熱の比)が異なる場合には熱力学第二法則に反することから示す。
熱機関としての効率が異なる可逆サイクルAと可逆サイクルBを並べて同じ二つの熱源間で動作させる(図9-左)。次式のように可逆サイクルAの熱機関としての効率
[-]が、可逆サイクルBの熱機関としての効率
[-]よりも高いと仮定する。
効率の高い可逆サイクルAを熱機関として、可逆サイクルBをヒートポンプとして、高温熱源とやりとりする熱の大きさが同じになるよう(
)に動作させ17る(図9-右)。
熱機関の効率の式(1)
と効率の関係の式(9)
から
ここで高温熱源とやりとりする熱が同じとなるように動作させている(
)ので、次式が成り立つ。
上式と熱機関におけるエネルギー保存の式(3)
とヒートポンプにおけるエネルギー保存の式(7)
より、
高温熱源とやりとりする熱の大きさが同じになるように動作させている(
)ので、次の関係が成り立つ。
図9の右側の図のオレンジの点線のように高温熱源も含めた大きな一つの系として考えると、全体での仕事は式(10)より系から取り出されている(図9右の右側でオレンジの点線から外に出ている青の矢印)。また、低温熱源からの熱は式(11)より系が受け取っている(図9右の下側でオレンジの点線へ入っている赤の矢印)。高温熱源も含めた大きな系で見ると、系が低温熱源(一つの熱源)から熱を受け取り仕事に変換しているため、熱力学第二法則のトムソンの表現(2節
)に反する。よって、ある可逆サイクルの効率が他の可逆サイクルの効率よりも高くなることはありえない。
同じ効率であれば、図10ように可逆熱機関Aと可逆ヒートポンプBの熱源とやり取りする熱の量が等しく、全体として熱の移動がないと見なせるため熱力学第二法則に反しない。よって、同じ二つの熱源で動作する可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)は必ず同じ効率となる。言い換えれば、二つの熱源が決まれば可逆サイクルの効率も決まる。
また、実在する不可逆の熱機関の効率が可逆サイクルの効率よりも高くなることはありえない。すなわち、可逆サイクルの熱機関としての効率は同じ二つの熱源を用いる中では最も高い。
実際の熱機関である自動車のエンジンでも可逆エンジンを作ることが出来れば、その可逆エンジンの効率を越えることは決して出来ない18。ヒートポンプでも同じである19。
図 10:
効率の等しい可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)
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脚注
- 17
- それぞれの可逆サイクルの熱の大きさが違う場合は、同じ可逆サイクルを複数個まとめて動作させて、それぞれの数を調整し、総計で同じ熱となるように調整する。
- 18
- 車のエンジンの高温熱源はガソリンの燃焼であり低温熱源は外気である。
- 19
- エアコンでの冷房では高温熱源は外気であり低温熱源は室内空気である。外気と室内空気を熱源とする可逆サイクルの成績係数は必ずどんな高性能なエアコンよりも高くなり、どんな可逆サイクルも同じ成績係数となる。
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