トムソンの表現

熱力学第二法則トムソン(ケルビン卿)の表現は発熱が不可逆な現象であることに注目した表現で、次のように表される。

「一様な温度をもつ一つの熱源から熱をとり出しこれを仕事に変換するだけで、ほかには何の結果も残さないような過程は実現不可能である」

発熱(仕事から熱への変換)は、物体を床の上で動かす(仕事をする)と摩擦で熱が出る(摩擦熱)ように容易にできる(図4-左)。これを時間の流れる向きを逆にすると、ある系に一つの熱源から熱を加えたら動き出すことになり、トムソンの表現のように実現不可能である(図4-右)。一つの熱源からの熱を仕事に変換することはできない。発熱は仕事から熱への一方通行の不可逆なエネルギー変換であり、この向きで時間の流れる向きが判断できる。

図 4: トムソンの表現
\includegraphics[width=90mm]{figures/2ndLawThomson.pdf}

熱から仕事を取り出す装置に熱機関がある。ある温度の物体とそれよりも低いもしくは高い温度の物体の間で熱機関を動作させると、火力発電所のように高温から低温へ伝わる熱の一部を仕事として取り出すことができる。しかし熱機関には必ず高温の熱源と低温の熱源が必要である。温度差のない一つの物体から熱を取り出し仕事に変換するだけで、他には何も結果を残さないような過程は実現不可能であることを表しているのがトムソンの表現である。

このトムソンの表現に反する装置があり、それを例えば船に載せたと考える。この際、このトムソンの表現に反する装置は、一様な温度を持つ物体である周囲の海水から熱を取り出し、仕事に変換し船を動かす運動エネルギーに使うことができる。船が停止すると運動エネルギーは波や摩擦などで全て熱として海へ戻るので、エネルギーは保存され熱力学第一法則には反しない。このようにトムソンの表現に反する装置があれば、燃料を使うことなく周囲の海水や大気から熱を取り出すことで乗り物を動かすことができる。しかし、トムソンの表現に反する装置が存在する可能性は今までに示されていない 1



脚注

1
一定温度の環境下でピストンが膨張した際には一つの熱源から熱を取り出し、仕事に変換することができる。この際、一定温度の環境は一つの熱源と考えることができる。このように、一つの熱源から熱を取り出して仕事に変換することは出来るが、過程の前後で状態が変わってしまう(ピストンの位置が違う)ため、“ほかには何の結果も残さない”ことにはならない。
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