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B.6 不可逆過程での不可逆損失

準静的過程でない過程が不可逆過程となる場合には、周囲と系との間で熱力学的平衡が成り立たない場合と、系の内部で熱力学的平衡が成り立たない場合がある。どちらの場合でも、平衡が成り立たない過程では過程中において損失があるので不可逆になる。周囲と系の熱力学的平衡について、ここでは周囲と系は閉じた系を考えているため物質のやり取りがなく、相平衡と化学平衡は考えなくても良い。そこで、周囲と系との力学平衡と熱平衡が成り立たない条件を考える。

外部と仕事のやり取りのあるサイクルでは必ずピストンのような可動部が存在する。力学平衡が成り立たない場合には、このピストンを挟んで周囲と系の圧力が異なる。この原因として、ピストンが動く際のピストンと容器との間で働く摩擦力と、ピストンを動かすために必要な慣性力に対する力が考えられる。摩擦力などの力が働いている際には周囲と系と間に圧力差がある。

質量$ m_{pis}$ [kg]のピストンの速度$ v$ [m/s]を変化させる(停止の速度ゼロから増やす)には、慣性力に対して次式で表される力$ F_{pis}$ [N]が必要である。

$\displaystyle F_{pis} = m_{pis} \frac{\partial v}{\partial t}
$

ピストンの面積が$ A_{pis}$ [m$ ^2$ ]であれば、系の圧力$ P_{sys}$ [Pa]と周囲の圧力$ P_{env}$ [Pa]の差により表される。

$\displaystyle P_{sys} - P_{env} = \frac{F_{pis}}{A_{pis}} = \frac{m_{pis}}{A_{pis}} \frac{\partial v}{\partial t}
$

上式で表される圧力差がないとピストンは動き出さない。

また、ピストンが動く際にピストンを支えている壁との間に必ず摩擦が生じ摩擦力が動きと逆方向に働く。摩擦力は有限の大きさであるので、微小な圧力差$ dP$ [Pa]では摩擦力に対抗しピストンを動かすことはできない。そのため、準静的過程では質量がなく摩擦のない理想的なピストンを考えなくてはいけない。

系の内部での平衡の条件を考える。過程において系の内部で力学平衡となっていない条件として、内部で圧力分布があり流れが起きる状態があげられる。

力学平衡が成り立たない条件では熱平衡も成り立たない。ピストンに摩擦力が働くと容器との間に摩擦熱が発生する(周囲とやり取りされる仕事の一部が摩擦熱に変換されているため、エネルギーは保存されている)。また、ピストンを押した場合にピストンの運動エネルギーが流体に伝わり内部で流れが発生し、流体の運動エネルギーが流れが徐々に小さな渦となることにより熱に変換されることでも熱平衡が成り立たなくなる(粘性消散)。熱に変換され発熱することにより、ある場所での温度が高くなり熱平衡ではなくなる。

また、熱が移動するには温度差が必要であり、必ず熱平衡状態とはならない。固体壁を挟んだ熱の移動$ Q$ [J]は熱伝導で伝わり、熱伝導の式(フーリエの法則)により次のようになる(壁の中の温度分布は線形と仮定する)B.2

$\displaystyle Q = A_{pis} k_{pis} \frac{T_{env} - T_{sys}}{l} \Delta t
$

ここで $ k_{pis} \left[ \dfrac{\rm W}{\rm K \cdot m} \right]$ はピストンの壁の熱伝導率、$ T_{env}$ [K]は壁の周囲側の温度、$ T_{sys}$ [K]は壁の内部側の温度、$ l$ [m]はピストンの壁の厚さ、$ \Delta t$ [s]は熱が伝わっている時間である。実際の現象では、熱は温度の高いところから低いところへ伝わり不可逆である。熱は熱平衡状態では伝わらない。

内部での温度が一定ではなく温度分布ができていれば熱平衡ではない。また、等温変化において圧力変化での圧縮や膨張による温度変化が、壁からの伝熱による温度変化よりも早ければ、内部の温度が周囲の等温環境の温度とは異なる。圧力と温度が周囲と同じ場合と異なるため、仕事が減りやりとりする熱が増える。また、ピストンの移動速度によりやりとりする仕事が変化することも考えられる B.3

不可逆過程ではサイクル内部の流体が可逆過程と同じ仕事のやりとりをしても、外部とやり取りする仕事の大きさが異なる。不可逆過程の多くがピストンの可動壁によるものであり、ピストンの可動壁がなく、系内で局所熱力学的平衡(3.6節、p. [*])が成り立っており十分に小さな系を考えれば、実際の現象においても断熱変化は可逆過程となりうる(系の内部で流れによる粘性消散B.4がある場合は不可逆)。


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