式(D.1)から何故仕事が状態量にならないのかを考える。 仕事と同じ式(D.1)で変化量を表すことの出来る、との関数である状態量の仕事エネルギー 1J (単位:無次元) [J] が存在すると仮定する D.1。 この仮定が正しければ成り立たなくてはならない交換法則が成り立たないことから、この仮定は間違っていることをしめす。
このの微小変化は次式で表される。 この式(D.3)は下記の全微分の形に対応している。 式(D.3)と式(D.4)の対応から次の二式が求まる。 上二式左辺の一階変微分は、さらに一階偏微分可能で連続であることは明らかであるD.2 ので元の仮定した関数は二階編微分可能で連続な級の関数である。級の関数は二階編微分において必ず次式の交換法則が成り立つD.3。 この交換法則が成り立たない場合には、仮定した関数は存在しないといえる。式(D.5)と式(D.6)をそれぞれとで偏微分し、式(D.7)が成り立つかを確認する。式(D.5)をで偏微分する。 次に式(D.6)をで偏微分する。 式(D.8)と式(D.9)より式(D.7)が明らかに成り立たないことから、関数は存在しないことが分かる。よって状態量となる仕事の関数は存在せず、仕事は状態量ではない。仕事を表す式(D.3)の様に積分して関数が得られない(状態量にならない)微分方程式を不完全微分方程式(Inexact differential equation)と呼ぶ。この不完全微分方程式を積分する際には、との積分範囲を指定するだけでは積分値を求められず、積分経路を指定した経路積分をしなくてはならない。これに対して、二階偏微分の交換法則がなりたてば、積分後の関数が存在する。そのような(状態量となる)微分方程式を完全微分方程式(Exact differential equation)と呼ぶ。
経路積分の必要な不完全微分方程式を完全微分方程式と区別するため ではなくを使って表す。微小量の仕事は次のように表される。
仕事や熱の特徴として、内部エネルギーなどが変化量の微小量として が使われていることに対して、仕事や熱のやは不完全微分方程式であることに加え、微小な変化量ではなく、状態変化の間に作用している仕事や熱の微小な大きさを表していることを注意して欲しい。