準静的過程における微小差
準静的過程において、系と周囲は熱平衡と力学平衡が成り立っており、系と周囲の温度と圧力は等しい。しかし、熱や仕事のやり取りをするには温度差や圧力差が必要である。準静的過程においては、ゼロの極限をとった微小な差をとり、無限の時間をかけることにより熱や仕事のやり取りをする。この状態で、系と周囲の温度や圧力は等しいのだろうか、異なっているのだろうか。準静的過程とは、平衡を維持したまま変化する過程であるので、温度と圧力は等しくなくてはいけない。
例として壁での熱伝導による熱の伝わりを考えると、熱伝導での伝熱の式(フーリエの法則D.8)は次のように表される(壁の中の温度分布は線形と仮定する)。
ここで、[J]は伝わる熱量、[m]は熱の伝わる面積、 [W/(mK)]は壁の熱伝導率、[m]は壁の厚さ、[s]は経過時間である。また、[℃またはK]は任意の有限の温度差とする。
この有限の温度差に対して、準静的過程でのゼロの極限をとった微小な差について考えよう。ゼロの極限をとった微小な温度差
[℃またはK]は次のように表される。
この
を熱伝導の式(D.18)の温度差[℃またはK]に代入し微小な温度差での伝わる熱量
[J]を求める。
分子の面積[m]、熱伝導率 [W/(mK)]は有限の大きさであり、経過時間[s]もどれだけ大きな時間(例えば1億年)経過しても有限の大きさである限りで割れば熱量
はゼロとなる。温度差[℃またはK]がゼロの場合も熱伝導の式(D.18)より熱量[J]はゼロとなる。このように、どれだけ長くても有限の時間の経過であれば“ゼロの極限をとった温度差”と“温度差ゼロ”で伝わる熱量は同じゼロであり、同様に系に影響を与えないため温度差はゼロとみなせ、系と周囲の温度が等しいと考えられる。経過時間[s]がである場合のみ分母のを消し、熱[J]がゼロではない値を持つことができるため、無限の経過時間でのみゼロの極限をとった差により熱を伝えることができる。
脚注
- D.8
- 詳細は伝熱のテキスト[][]を参照すること
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