エネルギーを変換する装置として発電所などで使われる熱機関とエアコンなどに使われるヒートポンプを紹介する。
熱機関とヒートポンプは、内部エネルギー、熱、仕事を変換する装置でる。 図1.15に二つの熱源で動作する熱機関とヒートポンプでの熱と仕事の作用の概要を示す。 熱機関とは高温熱源から熱を受け取り、一部を仕事として取り出し、残りの熱を低温熱源へ伝える系(装置)のことである。 熱機関は、蒸気を利用した蒸気機関車や、現在では自動車のエンジンや火力発電所、原子力発電所で利用され、高温熱源(燃料の燃焼など)と低温熱源(多くの場合、大気や海水) 131313自動車のエンジンを例に取ると低温熱源は大気である。低温の大気と高温の燃焼温度との間に温度差があるため、圧力差が生じエンジンが動作する。燃焼温度と大気温度が同じ温度であれば圧力差は生じず、エンジンのピストンは動かない。 の温度差で熱を伝える際に仕事を取り出す機械である。蒸気機関車であれば、機関車が仕事をされ速度が上がる(運動エネルギーが増える)。火力発電所や原子力発電所では、タービンが仕事をされ回転の運動エネルギーが増え、回転の運動エネルギーが電気エネルギーへと変換される。 図1.15のように今後熱機関の系は六角形状で表す。
また、ヒートポンプとは仕事をされることで低温熱源から熱を受け取り高温熱源へ熱を伝える系(装置)のことである。 ヒートポンプは冷蔵庫や冷凍庫、エアコン(暖房・冷房)に利用されており、仕事を与えられ低温熱源から高温熱源へ熱を伝える機械である。冷蔵庫では、庫内の低温の空気から室温の室内空気に熱を伝え庫内の温度を下げる。エアコンでは、夏季には室内から暑い室外に熱を伝え室内温度を下げ、冬季には寒い室外から熱を奪い室内を温め快適な環境を作る。 図1.15のように今後ヒートポンプは中央がくびれた形で表す。
熱機関とヒートポンプは高温熱源と低温熱源と熱のやり取りをしており赤矢印で表している。仕事のやり取りは青矢印で表している141414図の矢印の向きとは関係なく、熱と仕事は系に入るものを正、出るものを負とする。。 熱機関・ヒートポンプ共に熱のやりとりをする対象として少なくとも高温熱源と低温熱源の二つの熱源が必要である。 このような働きをする装置で連続的に動作できるものを熱機関やヒートポンプと呼ぶ151515ピストンを引く操作で仕事を取り出すことができるが、ピストン位置を元に戻さないと連続的に動作できないため熱機関とは呼べない。。
熱機関の効率とヒートポンプの性能の定義が、今後進める上で必要であるので、ここで定義をしよう。
熱機関効率とは装置に入ってきたものをどれだけ必要なものに変換できるかを示す割合である。今、熱機関で必要なものは仕事[J]であり、入ってくるものは高温熱源からの熱[J] 161616下付のH, EはHigh temperatureのHとheat EngineのEを表している。である。 少ない高温熱源からの熱で多くの仕事に変換出来ると効率がよいといえる。そこで、熱機関の効率 は
(1.20) |
で定義される(図1.16)。 全ての熱を仕事に変換できれば効率は1となる171717車のエンジンの効率は30~40%程度である[12][26][9]。。
式(1.20)の式の仕事を熱力学第一法則の関係から熱だけで表すことも出来る。 熱機関は同じサイクルを繰返し連続的に動作し内部エネルギーの変化[J]がゼロであるので、熱力学第一法則(式(1.19))より熱機関では高温熱源から受け取る熱[J]と低温熱源に移す熱[J]181818下付のL, EはLow temperatureのLとheat EngineのEを表している。、得られる仕事[J]の大きさの関係 191919プラスマイナスを考えると、全てのエネルギーは系に入る方向を正、出る方向を負としているので、絶対値を外すと次式のようになる。ちなみに熱機関では常に高温熱源からの熱[J]は正の値に、低温熱源に移す熱[J]は負の値、得られる仕事[J]は負の値となる。 (1.21) は以下のようになる。
(1.22) |
上式(1.22)と式(1.20)から熱だけで効率を次式のように表せる 202020絶対値を外した場合は (1.23) と定義される。 。
(1.24) |
ヒートポンプ成績係数は入力した仕事に対して何倍の熱を移すことができるかを表している。ヒートポンプでは低温熱源から高温熱源へ熱を伝えるのが目的であるので、少ない仕事[J]で多くの熱を移せると性能がよいといえる。そこで、ヒートポンプの性能を表す成績係数は高温熱源への熱[J] 212121下付のHはHigh temperatureのH、Pはheat PumpのPを表している。により
(1.25) |
で定義される(図1.17)222222高温熱源側を利用する場合はヒートポンプと呼ばれる。また、低温熱源側を利用する場合は冷凍機と呼ばれ、式中右辺の分子は低温熱源とやりとりする熱量[J]となる。またヒートポンプや冷凍機の成績係数はCOP(Coefficient of Performance)とも呼ばれる。。電気ヒーターのように仕事を全て熱にして高温熱源に伝える場合には成績係数は1となる232323一般的なエアコンの成績係数はカタログ性能で4~6程度[11]である。。
熱力学第一法則から成績係数(式(1.25))を熱だけの式で表すことも出来る。 ヒートポンプは熱機関と同様に同じサイクルを繰返し連続的に動作するので内部エネルギーの変化[J]がゼロであり、 熱力学第一法則(式(1.19))よりヒートポンプでは低温熱源から受け取る熱[J]242424下付のLはLow temperatureのL、Pはheat PumpのPを表している。(正の値)と高温熱源へ移す熱[J](負の値)、必要な仕事[J](正の値)の関係は 252525プラスマイナスを考えると、全てのエネルギーは系に入る方向を正、出る方向を負としているので、絶対値を外すと次式のようになる。ちなみにヒートポンプでは常に低温熱源から受け取る熱[J]は正の値、高温熱源へ移す熱[J]は負の値、必要な仕事[J]は正の値となる。 次のように表される。
(1.26) |
(1.27) |
とも書ける 262626絶対値を外すと と定義される。。
他のエネルギーの変換をしている設備として、現代社会では電力網が発達し電気エネルギーを媒介とすることが多いため、電気エネルギーとの変換が多い。ヒートポンプでは一般的にモータにより電気エネルギーから力学的な仕事に変換される。また、熱機関では燃焼により化学エネルギーから熱に変換され、タービンにおいて力学的な仕事から電気エネルギーへ変換される。電気の余剰が出た際には揚水発電所において、電気エネルギーをモータを使って、水を高い位置に持ち上げて貯めることで位置エネルギーに変換し、電力が不足している時に位置エネルギーから電力エネルギーに戻して利用している。ただ電気エネルギーに戻ってきた際の量は元の電気エネルギーの70%程度になってしまう。 また、人間など動物も食料を食べ化学エネルギーから仕事や熱に変換している。何時間ものあいだ休まずに働いたときの成人の仕事率は70 - 150 Wと言われている[10]。