まとめとして、系(物体)への力の作用によるエネルギーの伝達が仕事であり、そこから系(物体)が持っているエネルギーである運動エネルギー、位置エネルギーを導ける。この力学的エネルギーの変換は可逆的であり保存される。
力学的エネルギーから熱へ変換され内部エネルギーが上昇するエネルギーの変化を発熱と呼ぶ。発熱は不可逆の変化である。 また、温度差がある場合に温度の高い系(物体)から低い系(物体)にエネルギーが伝わるエネルギーの伝達を熱(伝熱)と呼び、これも不可逆の変化である。熱(発熱、伝熱)が関わると全体のエネルギー量は保存されるが不可逆の変化となる。
仕事、熱、運動エネルギー、位置エネルギー、内部エネルギーはエネルギーの一種であり、その総量が保存されることを示しているのが熱力学の第一法則である。
熱力学では主に次の形態のエネルギーが扱われる。
ある物体から別の物体へ力が作用した際に伝わるエネルギー [J]で表す
動いている物体が保有するエネルギー [J]で表す
重力場などの力場中にある物体が保有するエネルギー [J]で表す
仕事から内部エネルギーへのエネルギーの変化 [J]で表す
高温の物体から低温の物体に伝わるエネルギー [J]で表す
熱が伝わった際に、系の内部で変化するエネルギー [J]で表す
また、高温物体から低温物体へと伝わる熱の一部を仕事に変換する装置として熱機関が、仕事を受け取って低温物体から高温物体へ熱を伝える装置としてヒートポンプがある。
問題を復習のために載せている。問題の後ろに解答があるので、回答後に確認してほしい。
高温の物体と低温の物体を接触させた際に伝わるエネルギーをなんと呼ぶか。また単位は何か。
高温物体から低温物体へエネルギーが伝わった際、高温物体では減少し、低温物体では増加するエネルギーをなんと呼ぶか。また単位は何か。
次の中でエネルギーの一形態であるものを選べ。また、系に作用するエネルギーと系が保有するエネルギーに分けよ。
熱・内部エネルギー・仕事・運動エネルギー・位置エネルギー・運動量・温度・圧力・速度
真冬に0 ℃の6畳の部屋(幅2.7 m、奥行3.6 m、高さ2.6 m)で机から勢い良く飛び降りたら力学的エネルギーで何度部屋を暖めることができるだろうか。 (飛び降りた人の体重は70 kg、机の高さは1 m、重力加速度は9.81 m/s2、1 m/sで飛び降り、運動エネルギーと位置エネルギーは全て部屋の空気へ伝わり内部エネルギーの変化に使われたとする。) また、部屋は外部と断熱され、空気の等積比熱には0.717 kJ/(kgK)、密度には1.176 kg/m3(26.85℃、標準大気圧0.101325 MPaの値)を用い計算の範囲では一定とする。
真夏日の34℃の6畳の部屋(寸法および空気の等積比熱、密度は前問と同じとする)を冷房で27℃まで冷やす際に伝わる熱の量を求めよ。部屋は断熱されており、冷房以外のエネルギーの移動はないとする。
鍋に入っている20℃の2.0 L( m3)の水を100℃まで加熱するのに必要な熱を求めよ。(鍋は加熱箇所以外は断熱されており、水の等積比熱には3.992 kJ/(kgK)、密度には984.79 kg/m3(56.85℃、標準大気圧0.101325 MPaの値)を用い計算の範囲では一定とする。)
冷房で27℃に冷えた問4の6畳の部屋の中に、100℃まで加熱した問5の2 L( m3)の鍋を置いた。部屋は完全に断熱されており、他に熱が伝わらないとすると、十分に時間が経過し部屋と鍋の水が熱平衡となり温度が等しくなった際の温度と鍋から部屋の空気へ伝わった熱の大きさを求めよ。 (空気と水の等積比熱、密度は問4、問5と同じであり計算の範囲では一定として扱えるとする。)
室温で20℃のレトルトカレーを100℃のお湯の入った保温ポットで温める。レトルトカレーは一人前で200 g、お湯は2.0 L( m3)入っており、保温ポットに加熱機能はなく完全に断熱されている。十分に長い時間がたってレトルトカレーとお湯が熱平衡となり同じ温度になった状態で何度になるか求めよ。また、伝わった熱の大きさを求めよ。 レトルトカレーは水と同じ物性値を使えるとし、等積比熱には3.992 kJ/(kgK)、密度には984.79 kg/m3(56.85℃、標準大気圧0.101325 MPaの値)を用い計算の範囲では一定とする。
冬に5℃になった6畳の部屋を快適な温度まで暖めたい。問6と同じように100℃の鍋に入ったお湯を用いて部屋を暖められるとすると、快適な温度まで部屋を暖めるのに必要なお湯の量(体積)を求めよ。 (部屋は断熱されており、空気と水の等積比熱、密度は問4、問6と同じであり計算の範囲では一定として扱えるとする。まず、自分が冬に快適と感じる温度を決め、その温度にするために必要なお湯の量(体積)を求める。)
等積比熱と密度の値は熱物性ハンドブック[18]によった。
解答をそれぞれ示す。
熱、単位はJ(ジュール)。1.3.3節参照。
内部エネルギー、単位はJ(ジュール)。1.3.1節参照。
作用するエネルギーは熱・仕事、系が保有するエネルギーは内部エネルギー・運動エネルギー・位置エネルギー。すべて単位はJ(ジュール)。参考までに他の単位は運動量[kg m/s]・温度[℃またはK]・圧力[Pa]・速度[m/s]である。
机から跳び、床に降りることで、机と床での位置エネルギーの差、跳んだ速度と床で止まった状態との運動エネルギーの差は、熱となって床または部屋の空気に伝わり内部エネルギーが変化する。この問題では全て空気に伝わるとしている。位置エネルギーの変化量と運動エネルギーの変化量を求める。
位置エネルギーと運動エネルギーの変化量の合計の721.7 J空気の内部エネルギーが変化する。 次に6畳の部屋の体積を求める。
空気の密度は1.176 kg/m3とあるので、部屋の空気の質量を求める。
式(1.16)を変形し温度変化を求める。内部エネルギーの変化量を部屋の空気の質量と比熱で割る。
部屋の温度は約0.034 K(℃)上昇する。
問4から6畳の部屋の体積は25.272 m3、部屋の空気の質量は29.72 kgである。また、問5から鍋の中の水の質量は1.97 kgである。等しくなった際の温度をとすると、お湯の内部エネルギーの変化と部屋の空気の内部エネルギーの変化は式(1.16)より次式で表される。
内部エネルギーの変化は等しい(式(1.14))ので次式が成り立つ。
次に伝わる熱の大きさを求める。内部エネルギーの変化と伝わった熱の大きさは等しい(式(1.14))ので次式が成り立つ。 から伝わった熱を求める。
2 Lのお湯で6畳の部屋を46.68℃まで温めることができ、伝わる熱の大きさは419.31 kJである。
このように空気は水よりも密度と比熱が小さく、空気を加熱して温度を上げるのには、水の温度を上げるよりもはるかに小さなエネルギーでよいことがわかる。