状態線図

冷凍機・ヒートポンプ内の冷媒の状態の変化を視覚的にわかりやすく表すために、$P$-$h$線図や$T$-$s$線図が用いられる。

$P$-$h$線図は縦軸を圧力$P$、横軸を比エンタルピー$h$で表したグラフである。横軸の冷媒の比エンタルピーは熱や仕事のやり取りにより、そのエネルギー量に応じて変化するため、周囲とのエネルギーのやり取りが視覚的にわかりやすい。伝熱量$\varPhi$ [W] が作用すると比エンタルピーの変化$\Delta h$ [J/kg] は次のように表される。$G$ [kg/s] は冷媒の質量流量である。

$\displaystyle \varPhi = G \Delta h$    

縦軸の圧力$P$が大きいほど圧縮機で必要な仕事は大きくなる。

$T$-$s$線図は縦軸に温度$T$を、横軸に比エントロピー$s$を取ったグラフである。横軸の比エントロピーの変化で不可逆性が読みとれる。圧縮機が理想的な可逆圧縮となっていれば、横軸の比エントロピーの変化量は0 J/Kとなる。また、膨張弁では不可逆変化をしているため、比エントロピーは増加する。 また、温度と比エントロピーの変化量から冷媒の質量流量あたりの伝わった熱の大きさを求めることが出来る。

$\displaystyle \varPhi = T \Delta s G$    

右向きが比エントロピーが増加する熱を受け取る過程、左向きが熱を放出する過程である。右回りのサイクルは高温で熱を受け取る量が低温で熱を放出する量よりも多いため熱機関でありサイクル内の面積が実質取り出せる仕事となる。左回りは低温で熱を受け取り、高温で熱を放出するためヒートポンプサイクルである。同様に面積が必要な仕事となる。

図 5: $P$-$h$線図
\includegraphics[width=100mm]{figures/20150305P-hdiagram.pdf}

図 6: $T$-$s$線図
\includegraphics[width=100mm]{figures/20150305T-sdiagram.pdf}

圧縮機(1→2)の変化は,理想的には可逆断熱過程であり,図3.4.4の$T$-$s$線図,図3.4.5の$P$-$h$線図に示すようにエントロピー$s$は変化せずエンタルピー$h$・温度$T$・圧力$P$が上昇する.凝縮器(2→3)では,管摩擦損失などで冷媒の圧力$P$は低下するが,蒸発器との圧力差に比べれば小さいので近似的に等圧過程と見なす.ほぼ等圧過程であるので圧力$P$は一定である.周囲に熱を伝え保有しているエネルギーも低下するためエントロピー$s$・エンタルピー$h$共に減少する.温度$T$の変化については,$T$-$s$線図の飽和線の右側では過熱蒸気であるため熱を奪われることで温度$T$が低下するが,温度$T$が沸点まで低下すると(飽和線と交わると)凝縮が始まるため熱源とやり取りするエネルギーには冷媒の潜熱が使われ温度$T$は変化しない.温度$T$が変化する代わりに気体が液体へ相変化していく.$T$-$s$線図で点線で表した高温熱源の温度$T$は熱を受け取ることで上昇する.膨張弁(3→4)では理想的には等エンタルピー変化であるので,エンタルピー$h$は変化せず,圧力および温度$T$が低下する.膨張弁での変化は不可逆であるのでエントロピー$s$は増加する.蒸発器(4→1)では凝縮器と同じで等圧変化とみなす.圧力$P$は一定で,熱を周囲から受け取り保有するエネルギーが増加するためエントロピー$s$・エンタルピー$h$は増加する.蒸発器では二相域での変化をさせるので受け取った熱は蒸発の潜熱に用いられ常に温度$T$は変化しない.$T$-$s$線図で一点鎖線で表した低温熱源の温度$T$は熱を奪われることで低下する.

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