熱拡散率の詳細を無次元数であるフーリエ数Foを使って見ていく。
さらに、熱拡散率の値の大きさが何を表しているのか、より詳しく考えていく。
等温面の移動する位置と時間と熱拡散率との関係は無次元数であるフーリエ数Foを使うと、より具体的な値を求めやすい。式(1)のT はの関数となっており、これを2乗したは無次元数でフーリエ数
と呼ばれる。式(1)をフーリエ数Foを使って表すと次式となる。
上式右辺の中で変数はFoのみであり、固体内の温度T はフーリエ数Foのみの関数となっている。つまり、ある値の温度に対してはある一つの値のフーリエ数が対応する。このフーリエ数Foを使って、図4、図5で赤丸で示した肉の塊を焼く際にどこまで火が通るかを計算してみよう。肉が焼ける(変性する)温度T = 60 ℃に対応するフーリエ数
は、Tw = 180 ℃、T0 = 20 ℃と式(2)より次のように求められる。
上式のFo が約0.378となる肉の温度60℃の条件を、フーリエ数の定義
(時間t 、位置x )で書き直すと次式となる。
上式から肉の中での60℃の等温面の位置と時間の関係が分かる。図4の赤丸と比べてみよう。普通の肉(熱拡散率 a = 1.3 × 10-7 m2/s)で4分51秒(291 s)を代入する。
上式のように図4と同じように4分51秒(291 s)後に距離が1 cmとなることが確認できる。
同様に、肉の熱拡散率 a = 1.3 × 10-7 m2/sと肉が焼けている距離もしくは時間のどちらかを式(3)に代入すれば、肉が焼けている時間もしくは距離を求めることができる。
また、三倍の赤い肉でも熱拡散率 a = 3.9 × 10-7 m2/sと1分37秒(97 s)を代入することで、図5と同じ1 cmを求めることができる。
つまり、式(3)で表されるように熱拡散率は等温面がある時間(
)経過した際にどれくらい進んでいるか(
)を表しており、等温面の移動する速度を表している
脚注7。
すなわち、熱拡散率は等温面(温度)の伝わる(伝導)速さを表している
脚注8。
熱拡散率の値の大きさの意味の捉え方を考えてみよう。フーリエ数Fo が1の条件を考えると熱拡散率がとらえやすい(、時間t 、位置x )。式(2)にFo = 1を代入すると次式のように条件が求められる。
上式のように左辺の温度の比が0.4795・・・、約0.5になる条件がとなる条件である。左辺の温度の比は、分母が最高温度と最低温度の差であり、分子が最低温度からの変化分を、全体では無次元で温度分布の中での相対的な値を表し、無次元温度と呼ばれる。先ほどの例であればフライパンの表面が
、初期温度が
であるので、無次元温度が約0.5になる温度は約100 ℃脚注9である。
温度が約100 ℃の等温面のある時間t での位置x はであることから次式が成り立つ(最後に=1 sを代入する)。
上式から1 s後の約100 ℃(無次元温度約0.5)の等温面の位置はであることが分かる。先にあげた肉の熱拡散率
であれば、
だけ等温面が1 s後に進むことが分かる。1 s後に無次元温度が約0.5の等温面が進む距離の二乗を表したのが熱拡散率の値であるととらえれば、数値の大きさがとらえやすいのではないだろうか。
脚注
- 60℃以外の等温面の位置を求めたい場合には定数は0.378ではなく、式(2)から求めたい温度のフーリエ数を計算する。
- このことから熱拡散率は温度伝導率とも呼ばれる。
- より正確には無次元温度0.4795で96.72 ℃
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