熱拡散率の意味をより厳密に導き、等温面の伝わる速さを表すことを示す。 大きな塊の固体の片面を一定温度で加熱した場合の、固体内の温度の伝わりと熱拡散率との関係を考えてみよう。大きな肉の塊を加熱されたフライパンで焼くことを想像してもよい(図2) 脚注4。 熱拡散率の異なる個体での経過時間ごとの温度分布を計算し、熱拡散率と等温面の変化の関係を見ていく。
非定常熱伝導方程式を解き温度の厳密解から温度分布を求めた(詳細な導出はpdf版の付録に示す)。
条件として、固体は加熱を始めるまでは温度はT0 で一定で、加熱は個体の一方の端から温度Tw でされるとする。経過時間t [s]は加熱開始をt = 0 sとし、加熱面から垂直に座標x [m]をとり加熱面をx = 0 mとする。
固体内の温度分布は次式のように余誤差関数 erfc
脚注5で表される。
肉を焼く例(図2)で数値を入れ具体的に温度を計算してみる。肉は初め室温でT0 = 20 ℃、フライパンと肉の接触面はTw = 180 ℃で加熱されるとする。
肉をフライパンに置いた時間がt = 0 s、フライパンと肉の接触面がx = 0 mとなる。熱拡散率 a [m2/s]は通常の肉に近い値a = 1.3 × 10-7 m2/sと通常の三倍の赤い肉
脚注6(熱拡散率
a = 3.9 × 10-7 m2/s)について計算する。
式(1)に条件を入れ温度分布の式を求める。1分後(t = 60 s)の通常の肉の分布は次式となる。
同様に式(1)に条件を入れることで、通常の肉と三倍の赤い肉の1分後、2分後、3分後、4分後、5分後の温度分布を求めることができる(図4および図5)。 温度分布の図4および図5から熱拡散率の影響を見ていく。 図中で肉に火の通る(変性する)60℃の位置を赤丸で示した。 図4の通常の肉の1分後の温度分布を見ると、4 mmと少しの位置まで60℃より高く肉に火が通っていることが分かる。 図5の熱拡散率が通常の三倍の赤い肉の温度分布を見ると、8 mmより少し短い位置まで60℃より高く火が通っている。 両方の図で時間の経過とともに60℃である赤丸の位置が右に移動し、火の通っている厚さが増えている。 この二つの温度分布のグラフを、ある位置のある温度に達するまでの時間に注目して見てみると、熱拡散率が三倍の赤い肉では通常の肉に比べて、ある位置のある温度に達するまでの時間は三分の一となっていることが分かる。 例えば、1 cmの厚さが火が通る(60℃を越える)までの時間は通常の肉では4分51秒(291 s)(図4中青印)だが、三倍肉ではその三分の一の1分37秒(97 s)(図5中青印)となる。 このように熱拡散率が大きくなると、ある一定の温度となるまでの時間が短くなる、すなわち等温面の伝わる速度が速くなる。