next up previous contents
Next: 1.4.7 まとめ Up: 1.4 可逆熱機関(可逆ヒートポンプ) Previous: 1.4.5 可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)の効率と不可逆熱機関(不可逆ヒートポンプ)の効率の比較


1.4.6 可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)での熱の比

同じ一定温度の熱源二つで動作する可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)は、どんな熱機関やヒートポンプでも必ず同じ効率となり構成によらない(1.4.4節)。では、同じ熱源でなく異なる熱源で動作する可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)での効率はどちらが高くなるだろうか。一定温度の熱源が二つ決まれば効率は可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)の構成にはよらないので、効率を決める要素は二つの熱源の条件だけである。熱源とは熱のやりとりしかしなく熱のやり取りに影響するのは温度のみであるので、可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)の効率を決める条件は一定温度の熱源二つの温度のみである。よって温度$ T_1$ [℃]の熱源1と温度$ T_2$ [℃]の熱源2で動作する可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)の効率は二つの熱源の温度($ T_1$ [℃]、$ T_2$ [℃])の関数となる1.7

$\displaystyle \epsilon_{12可} = f(T_1, T_2)$ (1.15)

この関数 $ f(T_1, T_2)$ がどのような関数か明らかにするため、図1.7に示すように、温度$ T_H$ [℃]の熱源と温度$ T_L$ の熱源で動作する可逆熱機関1と温度$ T_H$ [℃]の熱源と温度$ T_M$ [℃]の熱源で動作する可逆熱機関2、温度$ T_M$ [℃]の熱源と温度$ T_L$ [℃]の熱源で動作する可逆熱機関3を考える。このとき熱源の温度の関係は $ T_H > T_M > T_L$ とする。

図 1.7: 可逆熱機関の効率
\includegraphics[width=50mm]{figures/ReversibleCycle3Source.eps}

この場合の各可逆熱機関の効率は可逆熱機関の効率の式(1.9) (p. [*])と式(1.15)から熱源の温度により次のように表される。

$\displaystyle \epsilon_{1可} = \frac{ \vert W_{1 可} \vert }{ \vert Q_{1, H 可} \vert } = f(T_H, T_L)$ (1.16)
$\displaystyle \epsilon_{2可} = \frac{ \vert W_{2 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert } = f(T_H, T_M)$ (1.17)
$\displaystyle \epsilon_{3可} = \frac{ \vert W_{3 可} \vert }{ \vert Q_{3, M 可} \vert } = f(T_M, T_L)$ (1.18)

ここで熱力学第一法則、式(1.8) (p. [*])より

$\displaystyle \vert Q_{1, H 可} \vert = \vert Q_{1, L 可} \vert + \vert W_{1 可} \vert
$

$\displaystyle \vert Q_{2, H 可} \vert = \vert Q_{2, M 可} \vert + \vert W_{2 可} \vert
$

$\displaystyle \vert Q_{3, M 可} \vert = \vert Q_{3, L 可} \vert + \vert W_{3 可} \vert
$

が成り立つ。上3式を左辺の高温側熱源から伝わる熱量で割り、それぞれの効率(式(1.16)-式(1.18))を代入し変形すると以下の関係が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{1, L 可} \vert }{ \vert Q_{1, H 可} \vert } = 1 - \epsilon_{1可} = 1 - f(T_H, T_L)$ (1.19)
$\displaystyle \frac{ \vert Q_{2, M 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert } = 1 - \epsilon_{2可} = 1 - f(T_H, T_M)$ (1.20)
$\displaystyle \frac{ \vert Q_{3, L 可} \vert }{ \vert Q_{3, M 可} \vert } = 1 - \epsilon_{3可} = 1 - f(T_M, T_L)$ (1.21)

ここで上3式の最右辺も二つの熱源の温度のみの関数となるので、次式のような関数 $ g(T_1, T_2)$ をおく。

$\displaystyle g(T_1, T_2) = 1 - f(T_1, T_2) = \frac{ \vert Q_{2 可}\vert }{ \vert Q_{1 可}\vert }$ (1.22)

式(1.19)-式(1.21)へ式(1.22)を適用すると、それぞれの可逆熱機関での高温熱源からの熱と低温熱源からの熱の大きさの比は次のように温度の関数で表される。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{1, L 可} \vert }{ \vert Q_{1, H 可} \vert } = g(T_H, T_L)$ (1.23)
$\displaystyle \frac{ \vert Q_{2, M 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert } = g(T_H, T_M)$ (1.24)
$\displaystyle \frac{ \vert Q_{3, L 可} \vert }{ \vert Q_{3, M 可} \vert } = g(T_M, T_L)$ (1.25)

可逆熱機関2の低温側の熱源へ伝わる熱の大きさ $ Q_{2, M 可}$ [J]と、可逆熱機関3の高温側の熱源から伝わる熱の大きさ $ Q_{3, M 可}$ [J]を、同じ大きさ$ Q_{M 可}$ [J]になるよう 1.8にそれぞれの可逆熱機関を動作させて( $ \vert Q_{2, M 可} \vert = \vert Q_{3, M 可} \vert = \vert Q_{M 可}\vert$ )、可逆熱機関2と可逆熱機関3を一つの可逆熱機関として動作させる。可逆熱機関2と可逆熱機関3の熱量の比の積から、次式の関係が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{M 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert } \frac{ \...
...t Q_{M 可}\vert } = \frac{ \vert Q_{3, L 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert }$ (1.26)

可逆熱機関2と可逆熱機関3を合わせた一つの可逆熱機関として考えると、温度$ T_H$ [℃]の熱源と温度$ T_L$ [℃]の同じ二つの熱源の間で動作する可逆熱機関とみなせるので、可逆熱機関1と効率は等しくなる。効率が等しいので伝わる熱の大きさの比は可逆熱機関1と等しく次式が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{3, L 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert } = \frac{ \vert Q_{1, L 可} \vert }{ \vert Q_{1, H 可} \vert }$ (1.27)

式(1.26)と式(1.27)から次の関係が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{M 可} \vert }{ \vert Q_{2, H 可} \vert } \frac{ \...
... Q_{M 可}\vert } = \frac{ \vert Q_{1, L 可} \vert }{ \vert Q_{1, H 可} \vert }
$

上式の最左辺と最右辺に式(1.23)、式(1.24)、式(1.25)を代入し温度の関数$ g$ で表すと、

$\displaystyle g(T_H, T_M) g(T_M, T_L) = g(T_H, T_L)
$

となる1.9。ここで、左辺は$ T_M$ [℃]を含む関数となっているが、右辺は$ T_H$ [℃]と$ T_L$ [℃]のみの関数で$ T_M$ [℃]の関数ではない。そのため、関数$ g$ は左辺で$ T_M$ [℃]が消える形の関数である必要がある。積で$ T_M$ [℃]が消えるように関数$ g$ を、ある温度を表す関数$ \phi$ (ファイ)で以下の形で表す。

$\displaystyle g(T_1, T_2) = \frac{\phi(T_2)}{\phi(T_1)}$ (1.28)

上式のように関数$ g$ が温度の商の関数だと、次式のように$ T_M$ [℃]が左辺から消える。

$\displaystyle g(T_H, T_M) g(T_M, T_L) = \frac{\phi(T_M)}{\phi(T_H)} \frac{\phi(T_L)}{\phi(T_M)} = \frac{\phi(T_L)}{\phi(T_H)} = g(T_H, T_L)
$

熱源の温度と、熱源とやりとりする熱量の関係をまとめると式(1.22)と式(1.28)より

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{2 可} \vert }{ \vert Q_{1 可} \vert } = \frac{\phi(T_2)}{\phi(T_1)}$ (1.29)

ここで$ \phi$ は単一の温度の関数である。上式(1.29)の関係から温度を定義する。次の式のように温度の関数$ \phi$ をそのまま熱力学的温度(絶対温度)$ \varTheta$ と定義し単位は[K](ケルビン)である[2]1.10

$\displaystyle \phi(T) = \varTheta
$

また日常使われる摂氏温度$ T$ [℃]は国際的にSI単位系の組立単位として絶対温度$ \varTheta$ [K]により次式で定義されている[3]。

$\displaystyle \varTheta = T + 273.15
$

よって関数$ \phi$ と摂氏温度$ T$ [℃]の関係は次式で表される。

$\displaystyle \phi(T) = T + 273.15
$

この熱力学的温度で表現すると、温度 $ \varTheta_1$ [K]と温度 $ \varTheta_2$ [K]の二つの熱源で動作する可逆熱機関の熱源とやりとりする熱量$ Q_1$ [J]と熱量$ Q_2$ [J]の関係は次のように熱力学的温度(絶対温度)の比で表される。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_{2 可} \vert }{ \vert Q_{1 可} \vert } = \frac{\varTheta_2}{\varTheta_1}$ (1.30)

$ Q_1$ [J]と$ Q_2$ [J]は伝わる方向が逆であり、符号が逆となるので絶対値を外して変形し次式となる。

$\displaystyle \frac{ Q_{1 可} }{ \varTheta_1 } = - \frac{ Q_{2 可} }{\varTheta_2}$ (1.31)

式(1.15)p. [*] と式(1.22) p. [*]、式(1.30)より、温度 $ \varTheta_1$ [K]の熱源と温度 $ \varTheta_2$ [K]の熱源($ T_1 > T_2$ )で動作する可逆熱機関の効率は次式(1.32)で表される。

$\displaystyle \epsilon_{12可} = 1 - \frac{ \vert Q_{2 可} \vert }{ \vert Q_{1 可} \vert } = 1 - \frac{T_2}{T_1} = \frac{T_1 - T_2}{T_1}$ (1.32)


next up previous contents
Next: 1.4.7 まとめ Up: 1.4 可逆熱機関(可逆ヒートポンプ) Previous: 1.4.5 可逆熱機関(可逆ヒートポンプ)の効率と不可逆熱機関(不可逆ヒートポンプ)の効率の比較


この図を含む文章の著作権は著者にあり、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 3.0 非移植 ライセンスの下に公開する。