仕事から内部エネルギーへと変換される過程は二種類に分けることが出来る。一つは元の状態に戻ることの出来る可逆的な系への仕事の作用によって、系の内部エネルギーが上昇する過程である。例えば、摩擦や空気抵抗のない理想的なピストンの内部を系として考え、ピストンを押して系に仕事をする(図1.11)。すると、ピストン内部の系の温度と圧力が上昇し、内部エネルギーが仕事をされた分だけ上昇する。次にピストンを逆方向へ元の位置まで動かせば系は周囲に同じだけの仕事をする。これが可逆的な系への仕事の作用の例である。
もう一つの過程では、仕事は不可逆的に系に作用する。この仕事から内部エネルギーへの不可逆的な作用を発熱と呼ぶ。 よく熱力学で挙げられる例として、1850年にジュールにより報告された水槽の中に羽根車を入れて、羽根車を回転させ水に仕事をする実験[](図1.12)がある(水槽が系)1.5。このとき、羽根車によって仕事をされた水槽の水は動き出すが、羽根車を止めた後に十分に長い時間待てば水は粘性により静止し温度は上昇する。静止した水は羽根車が回る前の水と運動エネルギー、位置エネルギー共に変化していない。羽根車から水に作用した仕事により水の内部エネルギーが変化している。 この過程では逆の現象、水が動き出して板を押すということが起こることはないので、不可逆な現象である。この不可逆という考え方は熱力学で非常に重要な意味を持ち、時間の向きを決めるエントロピーへとつながる。詳細は後ろの熱力学第二法則の2章 で述べる1.6。 発熱の他の例として、摩擦では異なる速度で運動している物体が接触した際に、互いに仕事が作用し速度が変わる。その仕事の一部が熱となり、物体の内部エネルギーが高くなり温度が上昇する現象が摩擦である。電気が流れる際にも電気抵抗のため電気エネルギーが熱に変換され、電気を流れている伝導体の内部エネルギーが高くなり温度が上昇する。この際の系に入ってきた電気エネルギーも仕事として捉えることが出来る。
この可逆と不可逆の仕事の作用は同じ仕事をして、同じだけ内部エネルギーが上昇しても、過程終了後の圧力や温度が異なる。 仕事が完全に不可逆な変化で全て発熱した場合は、系は高温の物体から同量の熱が伝わった後と同じ状態となる。 現実の系への仕事の作用では可逆だけの作用はありえず、可逆の作用に摩擦などが混ざった不可逆の作用となる。 可逆過程では逆の作用で元の状態(圧縮前)に戻るが、不可逆な作用が加わった場合には不可逆分だけ元の状態に戻すことができなくなる。