1.2.4節
で示した力学的エネルギーは保存され互いに変換される。しかし摩擦など発熱で内部エネルギーに変換された場合は簡単に元の力学的エネルギーに戻ることはできず不可逆な現象となる。
熱を考えず力学的エネルギーの保存のみを考え可逆であった1.2.4節
の図1.10
と同じボールとバネで熱への変換がある場合を考える。
図1.13<1>ではボールは動いていないので位置エネルギーだけである。エネルギーの合計は次式で表される。
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(1.8) |
図1.13<2>では<1>に比べて位置エネルギーが減少し、減少分だけ運動エネルギーが増えている。ボールが空気中を落下する際には空気との摩擦や発生した空気の渦により、運動エネルギーの一部は熱となり、空気やボールの温度を上げ内部エネルギーの上昇に使われる。エネルギーの合計は次のようになる。力学的エネルギーのみの場合の式(1.3)と比べて、同じ位置(同じ位置エネルギー)では内部エネルギーが上昇した分(
)だけ運動エネルギーが小さく(
)、速度が遅くなることがわかる。
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(1.9) |
図1.13<3>では速度は0で位置エネルギーの基準をこの位置ととれば、エネルギーの合計はバネのエネルギーと温度上昇分の内部エネルギーの変化分であり、次のように表される。この時のバネのエネルギーは力学的エネルギーのみの場合の式(1.4)のバネのエネルギーよりも内部エネルギーの変化分(
)だけ小さくなる(
)。
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(1.10) |
図1.13<4>では位置が<2>と同じとする(
)と、さらに空気の摩擦などにより内部エネルギーの変化量が増えており(
)、運動エネルギーはさらに小さく(
)、速度もさらに遅い。
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(1.11) |
図1.10<5>では内部エネルギーに変化した分(
)だけ位置エネルギーは小さく、<1>よりも低い位置で速度がゼロとなる。
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(1.12) |
現実におこっているように力学的エネルギーが熱から内部エネルギーへ変換される場合には、現象は不可逆となる。時間を逆に<5>→<4>→<3>→<2>→<1>と動かした場合、初めの位置よりも高くボールが持ち上がることはありえず、不可逆な現象であり、時間の進む向きは明らかである。
ボールが跳ね続ければ、ボールの力学的エネルギーは全て空気抵抗などで熱に変換され、ボールや周囲の温度が高くなり、ボールの運動は止まる1.7。
脚注
- 1.7
- 大きな温度差のある空気が接している場合には自然対流で空気が動き出すことがあるが、熱は温度差を小さくする方向へ伝わるので、熱が伝わることで自然対流が起こりやすくなることはない。
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