熱の伝わりによる内部エネルギーの変化

1.14のように2つの物体を接触させると、伝わった熱$Q$[J]の分だけ、質量 $m_\mathrm{h}$[kg]で定積比熱 $c_{V\mathrm{,h}}$ [J/(kg$\cdot$K)]の高温の物体の内部エネルギーは $U_\mathrm{h1}$[J]から $U_\mathrm{h2}$[J]に減少し( $U_\mathrm{h1} > U_\mathrm{h2}$)、質量 $m_\mathrm{l}$[kg]で定積比熱 $c_{V\mathrm{,l}}$ [J/(kg$\cdot$K)]の低温の物体の内部エネルギーは $U_\mathrm{l1}$[J]から $U_\mathrm{l2}$[J]に増加する( $U_\mathrm{l1} < U_\mathrm{l2}$)。この内部エネルギーの変化量に応じて、物体の温度が変化する。高温物体の内部エネルギーの変化(減少) $\Delta U_\mathrm{h}$[J]は次式より求まる 1.12

$\displaystyle \Delta U_\mathrm{h} = U_\mathrm{h2} - U_\mathrm{h1} = \int^{T_\ma...
...mathrm{h} \int^{T_\mathrm{h2}}_{T_\mathrm{h1}} c_{V\mathrm{,h}} \mathrm{d}T < 0$    

温度の変化に対して定積比熱$c_V$ 1J/(kg K) (単位:無次元) [J/(kg K)] を一定とみなすことが出来れば、次式より求まる。

$\displaystyle \Delta U_\mathrm{h} = U_\mathrm{h2} - U_\mathrm{h1} = c_{V\mathrm{,h}} m_\mathrm{h} ( T_\mathrm{h2} -T_\mathrm{h1} ) < 0$ (1.16)

低温物体の内部エネルギーの変化(増加) $\Delta U_\mathrm{l}$ 1J (単位:無次元) [J] も同様に次式より求まる。

$\displaystyle \Delta U_\mathrm{l} = U_\mathrm{l2} - U_\mathrm{l1} = \int^{T_\ma...
...mathrm{l} \int^{T_\mathrm{l2}}_{T_\mathrm{l1}} c_{V\mathrm{,l}} \mathrm{d}T > 0$    

温度の変化に対して定積比熱$c_V$ 1J/(kg K) (単位:無次元) [J/(kg K)] を一定とみなすことが出来れば、次式より求まる。

$\displaystyle \Delta U_\mathrm{l} = U_\mathrm{l2} - U_\mathrm{l1} = c_{V\mathrm{,l}} m_\mathrm{l} ( T_\mathrm{l2} -T_\mathrm{l1} ) > 0$ (1.17)

仕事の作用がないので伝わった熱$Q$[J]と内部エネルギーの変化$\Delta U$[J]は式(1.13) $^{\text{p.\pageref{eq-HeatInternalEnergy}}}$に示すように等しく、また高温の物体の内部エネルギーの変化したエネルギーが熱となって伝わり低温の物体の内部エネルギーを上昇させるため、高温の物体と低温の物体の内部エネルギーの変化量の絶対値は等しく次の関係が成り立つ 1.13

$\displaystyle - \Delta U_\mathrm{h} = \Delta U_\mathrm{l} = \vert Q\vert$ (1.18)

このように内部エネルギーは系の持っているエネルギーであり、熱は物体間に温度差がある場合ある物体から別の物体へと伝わるエネルギーである。熱の移動は温度の差がある場合だけに起こり、物質や大きさが違えば温度が同じでも内部エネルギーが違うこともありえるが、内部エネルギーの差では熱の移動は起こらない。また温度の低い物体から温度の高い物体へ熱は伝わらないため、熱が伝わる現象は不可逆である。可逆と不可逆の詳細については付録B.1 $^{\text{p.\pageref{sec-Irreversible}}}$に示す。

これまでに示した温度の変化の際の内部エネルギーの変化を、温度変化として顕(あらわ)れているので顕熱と言う。内部エネルギーには温度変化による顕熱の他に、固相から液相、液相から気相のように相変化をした際の内部エネルギーの変化である潜熱も含まれる。固相から液相、液相から気相への相変化では潜熱により内部エネルギーが増加し、気相から液相、液相から固相への変化では内部エネルギーは減少する。水の加熱を例に挙げると、鍋で水を沸かす場合、常温から水に熱を加えると大気圧下での水の沸点温度100 ℃まで加えられた熱は顕熱として内部エネルギーが変化し温度が上昇する。温度が100 ℃に到達すると熱を加えても温度は変化せず、加えられた熱により潜熱として内部エネルギーが変化し液相の水が気相の蒸気へと相変化する。水が全て蒸気へと変化すると、鍋の場合には拡散して空気と混ざってしまうが、再度加えられた熱は顕熱として内部エネルギーが変化し、温度が上昇する。水を液相から気相へ相変化させるのに必要な潜熱は大気圧下で単位質量あたりで2257 kJ/kg []である。定積比熱が4.130 kJ/(kg K) []であるので、1 kgの水を沸騰させるのに必要なエネルギーで約546 kgの水の温度を1 ℃上げることができる。水1 kgの潜熱に相当する力学的エネルギーは、約2000 kgの物体を重力下で約115 m持ち上げる位置エネルギーで同程度である。



脚注

...[J]は次式より求まる 1.12
$\Delta$で表される変化量は変化後から変化前を引くことで求められる。前後の順番が分からなくなった時は、量が増加した場合は正の値となり、減少した場合は負の値となる順番にすると正しい式となる。
...に示すように等しく、また高温の物体の内部エネルギーの変化したエネルギーが熱となって伝わり低温の物体の内部エネルギーを上昇させるため、高温の物体と低温の物体の内部エネルギーの変化量の絶対値は等しく次の関係が成り立つ 1.13
式(1.18)での熱$Q$[J]は高温物体と低温物体どちらの出入りを考えるかで符号が変化するため絶対値で表す。また、低温物体での内部エネルギーの変化は増加するため正、高温物体は減少するため負となるので、高温物体の変化量にマイナスをつけることで式(1.18)が成り立つ。
トップページ
この図を含む文章の著作権は椿耕太郎にあり、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に公開する。最新版およびpdf版はhttps://camelllia.netで公開している。