2.6 ヘルムホルツの自由エネルギー

ヘルムホルツの自由エネルギーは等温等積の系における時間の進む方向を示す指標となる。エントロピーが周囲から断熱された系で時間の進む方向を示していることから拡張している。

2.6.1 ヘルムホルツの自由エネルギーの定義

ヘルムホルツの自由エネルギーの定義は準静等温過程における仕事によってする。準静等温過程では、前後の状態で決まる最大の仕事を取り出すことができる(B.6p.B.6)。前後の状態で決まるため、ある状態量の差が仕事となると考えられる。状態1から状態2での準静等温過程で取り出せる最大の仕事W12[J]から、以下のように状態量をヘルムホルツ(Helmholtz)の自由エネルギーF[J]として定義する242424ヘルムホルツの自由エネルギーやエントロピーの定義については田崎の教科書[19]が詳しい。

ΔF=F2F1=W12 (2.30)

このヘルムホルツの自由エネルギーが等温等積過程で必ず時間とともに増加することを示す。 この可逆の準静過程から取り出される最大仕事に比べると、当然、準静過程でない通常の過程で取り出される仕事Wの大きさ(絶対値)は小さい。少しわかりにくいが、取り出す仕事であるため、WW12も負の値であり、取り出す仕事が大きい、絶対値が大きい負の値を持つW12Wよりも小さくなるため次式の関係を得る252525準静過程でイコールとなる

|W| |W12|
W W12
W ΔF (2.31)

ヘルムホルツの自由エネルギーは、その状態で潜在的に持っている等温過程において取り出せる仕事の最大量を表している。ヘルムホルツの自由エネルギーの差が、等温過程において取り出すことができる仕事の最大量となる。

等温等積の過程でのヘルムホルツの自由エネルギーの変化と時間の進む方向との関係を明らかにしよう。 等温過程において、さらに体積が変わらない等積過程 262626体積も温度も変わらないのであれば、何も変化しないのではないかと思うかもしれないが、内部での化学変化がある場合が想定できる。 であれば周囲とのあいだに仕事のやりとりがないため、状態1(F1)から状態2(F2)への変化は式(2.31)から次式で表される。

0 F2F1
F2 F1

上式は等温等積過程では必ず過程の後、時間が経過した後のF2が経過の前のF1よりも小さくなることを示している。すなわち等温等積過程では時間はヘルムホルツの自由エネルギーが減少する方向に進む。

2.6.2 ヘルムホルツの自由エネルギーと他の状態量

ヘルムホルツの自由エネルギーと他の状態量の関係を表す。可逆サイクルで伝わる熱によりエントロピーの変化は以下の式(2.28)p.2.28で表される。

ΔS=QΘ (2.28)

また、可逆過程である準静等温過程における仕事はヘルムホルツの自由エネルギーの差で表されるので、状態1から状態2に変化する準静等温過程での仕事は式(2.30)p.2.30から以下のように表される。

W12 =F2F1 (2.30)

熱力学の第一法則の式(1.19)p.1.19より内部エネルギーU[J]と熱Q[J]、仕事W[J]に対して次式が成り立つ。

U2U1=Q12+W12 (2.32)

式(2.28)に式(2.30)と式(2.32)を代入することで、 式(2.28)に式(2.30)と式(2.32)を代入することで、 等温準静過程での熱Q12は次のように変形できる。

ΔS12 =Q12Θ12
=(U2U1)(F2F1)Θ12
=U2F2Θ12U1F1Θ12

変化量ΔS12[J/K]を差で表すと次式となる。

S2S1=U2F2Θ12U1F1Θ12

上式中で各状態ごとの状態量の関係を示すと、エントロピーを可逆の条件をつけることなく次式のように表せる。

S=UFΘ

また変形すると次式のようにヘルムホルツの自由エネルギーF[J]は内部エネルギーU[J]からエントロピーS[J/K]と絶対温度Θ[K]の積を引いた値となる。

F=UΘS