複数の熱源

全体で断熱された系の中に、複数の熱源とサイクルがある場合を考える。 n個の熱源でエントロピーを $Q / \varTheta$と定義した場合に、次式のように全体でエントロピーが増大すると仮定する。

$\displaystyle \sum^n_{i=1} \frac{Q_i}{\varTheta_\mathrm{源 i}} \geq 0$ (2.20)

上式が成り立つ場合に、n+1個の熱源でも次式のようにエントロピーが増大することを示す。

$\displaystyle \sum^{n+1}_{i=1} \frac{Q_i}{\varTheta_\mathrm{源 i}} \geq 0
$

このことが示せれば、一熱源、二熱源では成り立つことをすでに示しているから、エントロピーの増大が複数熱源で一般的に成り立つと言える。

図 2.15: 複数熱源
\includegraphics[height=70mm]{figures/MultiHeatSource.pdf}

2.15に示すように、n+1個の温度の異なる熱源と、その全ての複数熱源と熱交換をする複数熱源サイクルM、熱源nと熱源n+1の二つのみを熱源とする可逆サイクルRを考える。それぞれの熱源の温度は $\varTheta_\mathrm{源1}$ $\varTheta_\mathrm{源2}$$\cdots$ $\varTheta_{源n}$ $\varTheta_{源n+1}$、サイクルMと熱源とで作用する熱を $Q_\mathrm{M,1}$ $Q_\mathrm{M,2}$$\cdots$ $Q_{\mathrm{M,}n}$ $Q_{\mathrm{M,}n+1}$、可逆サイクルRが熱源$n$、熱源$n+1$とやり取りする熱をそれぞれ $Q_{\mathrm{R,}n}$ $Q_{\mathrm{R,}n+1}$とする。 熱源のエントロピー変化を考えるので、熱は熱源が受け取る向きを正とする。熱が正となる向きを矢印の向きとしている。

可逆サイクルRと複数熱源サイクルMは、熱源n+1と同じ大きさで違う向きの熱のやり取りをさせる。式で表すと次式となる2.22

$\displaystyle Q_{\mathrm{M,}n+1} + Q_{\mathrm{R,}n+1} = 0$ (2.21)

複数熱源サイクルM、熱源n+1、可逆サイクルRをまとめて一つのサイクルとして考えると、式(2.21)の $\dfrac{Q_n}{\varTheta_n}$の項はサイクルMと可逆サイクルRでの熱の和で $\dfrac{Q_{\mathrm{M,}n}}{\varTheta_n}+\dfrac{Q_{\mathrm{R,}n}}{\varTheta_n}$となり、次式が成り立つ。

$\displaystyle \sum^{n-1}_{i=1} \frac{Q_{\mathrm{M,}i}}{\varTheta_{源i}} + \frac{Q_{\mathrm{M,}n}}{\varTheta_{源n}}+\frac{Q_{\mathrm{R,}n}}{\varTheta_{源n}} \geq 0$ (2.22)

可逆サイクルRは熱源$n$と熱源$n+1$の二つを熱源とするため式(2.14)が適用できる。

$\displaystyle \frac{Q_{\mathrm{R,}n}}{\varTheta_{源n}} + \frac{Q_{\mathrm{R,}n+1}}{\varTheta_{\mathrm{源}n+1}} = 0$    

式(2.23)へ代入する。

$\displaystyle \sum^{n-1}_{i=1} \frac{Q_{\mathrm{M,}i}}{\varTheta_{\mathrm{源}i}}...
...heta_{\mathrm{源}n}}+\frac{Q_{\mathrm{R,}n+1}}{\varTheta_{\mathrm{源}n+1}} \geq 0$    

式(2.22)により次式を得る。

$\displaystyle \sum^{n-1}_{i=1} \frac{Q_{\mathrm{M,}i}}{\varTheta_{\mathrm{源}i}}...
...heta_{\mathrm{源}n}}+\frac{Q_{\mathrm{M,}n+1}}{\varTheta_{\mathrm{源}n+1}} \geq 0$    
$\displaystyle \sum^{n+1}_{i=1} \frac{Q_{\mathrm{M,}i}}{\varTheta_{\mathrm{源}i}} \geq 0$    

これで、複数熱源でも正しい時間の流れ(熱力学第二法則に反しない場合)ではエントロピーは増大することが確認できた。



脚注

...可逆サイクルRと複数熱源サイクルMは、熱源n+1と同じ大きさで違う向きの熱のやり取りをさせる。式で表すと次式となる2.22
それぞれのサイクルの仕事の大きさが違う場合は、同じサイクルを複数個まとめて動作させて、それぞれの数を調整し、総計で同じ仕事となるように調整する。
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