全体で断熱された系の中に、二つの熱源と、可逆サイクル、熱力学第二法則クラウジウスの表現に合うサイクル、熱力学第二法則クラウジウスの表現に反するサイクルが含まれる系についてそれぞれ考えていく。
まず、
条件3-1(系全体で条件1「可逆では変化しない」が成り立つ)を考える。可逆サイクルと高温熱源の系、低温熱源の系2.21があり、図2.12のように全体として断熱されている系を考える。
この系は全体で断熱されていて可逆サイクルが可逆変化をするため、全体でエントロピーが変化しないような定義にしたい。全体としてのエントロピーの変化(
)は次式のように各系のエントロピー変化の和を求めればよい(高温熱源のエントロピー変化は
、低温熱源のエントロピー変化は
、可逆サイクルのエントロピー変化は
、)。
この中で、サイクルは一サイクルの初めと終わりの状態が変わらないため状態は変化しない。エントロピーも一サイクルの始めと終わりで同じ状態となるため、可逆サイクルを含む全てのサイクルは一サイクル中でエントロピー
は変化しない。よって次式が成り立つ。
熱源でのエントロピーの変化を考えるのに、可逆サイクルでの熱源とやりとりから考える。可逆サイクルでの熱と温度の関係は、式(2.14)
より以下の式で表される。
この式ではサイクルにはいる熱が正、出る熱が負と定義をしているので、熱の絶対値を外しエントロピーを
とすると、次のように高温熱源での増加分と低温熱源での減少分が等しくなる。
この関係から系全体のエントロピーの変化はゼロとなることが分かる。
つまり
をエントロピーとすると、可逆の過程で断熱された系では変化しない量となる。
条件3-2(全体で条件2が成り立つ)を考える。熱力学第二法則(2.2節
)に合う場合には「時間の流れも正しい方向に流れている」と言えるためエントロピーが増加することを確認する。
熱力学第二法則クラウジウスの表現に合う、通常身の回りでおこりうる系を考える。身の回りでおこりうる現象として、高温から低温へ熱を伝える系を考える。
図2.13のように、全体で断熱された系の中に、高温熱源系(温度
)、低温熱源系(温度
)、高温から低温に熱を伝えるだけのサイクルの系の三つの系がある場合は、サイクルを介して高温から低温に熱が伝わっているだけなので、熱力学第二法則クラウジウスの表現に合う。ここでもエントロピーを先ほどのように
として計算をしてみよう。間のサイクルは同じ状態で動作するのでエントロピーは変化しない。高温熱源系は熱を与えるので熱は負となり
となる。低温熱源系は熱を受け取るので熱は正となり
となる。高温熱源系でエントロピーは減少し、低温熱源系でエントロピーは増加する。全体での変化量
は次のようになる。
温度は高温熱源系が低温熱源系よりも高いため、全体でエントロピーは増加をしていることがわかる。正しい時間の向きでエントロピーが増加したので、エントロピーとして
を用いることはここの条件では目的にかなっている。
熱力学第二法則クラウジウスの表現に反する場合には時間の流れが正しく流れていない(逆に向いている)ためエントロピーが減少することを確認する。(図2.14)のように、全体で断熱された系の中に、高温熱源系(温度
)、低温熱源系(温度
)、低温から高温に熱を伝えるだけの反クラウジウスサイクルの系の三つの系がある熱力学第二法則クラウジウスの表現に反する場合である。ここでもエントロピーを先ほどのように
として計算をしてみよう。間のサイクルは同じ状態で動作するのでエントロピーは変化しない。高温熱源系は熱を受け取るので熱は正となり
となる。低温熱源系は熱を与えるので熱は負となり
となる。高温熱源系でエントロピーは増加し、低温熱源系でエントロピーは減少する。全体での変化量
は次のようになる。
温度は高温熱源系が低温熱源系よりも高いため、全体でエントロピーは減少していることがわかる。熱力学第二法則に反する正しくない時間の向きでエントロピーが減少したので、エントロピーとして
を用いることはここの条件では目的にかなっている。
図 2.14:
エントロピーと反クラウジウスサイクル
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また、熱力学第二法則トムソンの表現に合う系と反する系についても付録2.4.2
に示すように、エントロピーとして
を使うと条件とあう。
脚注
- 2.21
- ここで熱源の条件は5.1.2節
で示したように温度だけである。
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