可逆サイクルと不可逆の熱機関の効率の比較

ここでは可逆サイクル(可逆熱機関・可逆ヒートポンプ)の効率が実在する不可逆の熱機関や不可逆のヒートポンプの効率よりも低い場合には熱力学第二法則に反することを示し、可逆サイクル(可逆熱機関・可逆ヒートポンプ)の効率は実在する熱機関やヒートポンプの効率よりも必ず高くなることを示す。

可逆サイクルと不可逆熱機関(トムソンの表現)

まず可逆サイクルと不可逆の熱機関の比較をする。不可逆の熱機関Eと可逆サイクルRを考える。ここで、不可逆の熱機関Eの効率 $\eta_\mathrm{E不}$が可逆サイクルRの効率 $\eta_\mathrm{R可}$よりも高いと仮定しよう(図B.6-左)。この仮定をした結果、熱力学第二法則(トムソンの表現)に反することで、この仮定が間違っていることを示す。

図 B.6: 可逆サイクルと不可逆熱機関の比較
\includegraphics[height=70mm]{figures/RevIrevEngineThomson.pdf}

不可逆の熱機関の効率が可逆サイクルの効率より高い仮定から次式が示される。

$\displaystyle \eta_\mathrm{E不}$ $\displaystyle > \eta_\mathrm{R可}$    

効率の関係の式(1.20) $^{\text{p.\pageref{eq-EfficiencyEngine}}}$から、次式が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert W_\mathrm{E} \vert }{ \vert Q_\mathrm{H, E} \vert }$ $\displaystyle > \frac{ \vert W_\mathrm{R} \vert }{ \vert Q_\mathrm{H, R} \vert }$    

可逆サイクルRはヒートポンプとしても動作できる(図B.6-右)ので、不可逆の熱機関Eが高温熱源に受け渡す熱と同じだけの熱を受け取る( $\vert Q_\mathrm{H, E}\vert = \vert Q_\mathrm{H, R}\vert$)可逆ヒートポンプとして動作させる(図B.6-右)と次式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{E} \vert > \vert W_\mathrm{R} \vert$ (B.4)

エネルギーの保存式(1.22)と式(1.26)と、高温熱源側の熱の大きさの関係( $\vert Q_\mathrm{H, E}\vert = \vert Q_\mathrm{H, R}\vert$)から、

$\displaystyle \vert Q_\mathrm{L, R} \vert > \vert Q_\mathrm{L, E} \vert$ (B.5)

B.6の右側の図のオレンジの点線のように高温熱源も含めた大きな一つの系として考えると、全体での仕事は式(B.4)より系から取り出されている。また、低温熱源からの熱は式(B.5)より系が受け取っている。大きな系で見ると、系が低温熱源(一つの熱源)から熱を受け取り仕事に変換しているため、熱力学第二法則のトムソンの表現(2.2 $^{\text{p.\pageref{sec-2ndLawStatements}}}$)に反する。よって、実在する不可逆の熱機関の効率が可逆サイクルの効率よりも高くなることはありえない。可逆サイクルの熱機関としての効率は、同じ二つの熱源を用いる中では最も高い。また、二つの熱源が決まれば可逆サイクルの効率も決まる。

可逆サイクルと不可逆熱機関(クラウジウスの表現)

次に同じように不可逆の熱機関Eと可逆サイクルRを考える。ここで、不可逆の熱機関Eの効率 $\eta_\mathrm{E不}$が可逆サイクルRの効率 $\eta_\mathrm{R可}$よりも高いと仮定しよう(図B.7-左)。この仮定をした結果、熱力学第二法則(クラウジウスの表現)に反することで、この仮定が間違っていることを示す。

$\displaystyle \eta_\mathrm{E不}$ $\displaystyle > \eta_\mathrm{R可}$    

効率の関係の式(1.20) $^{\text{p.\pageref{eq-EfficiencyEngine}}}$から、次式が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert W_\mathrm{E} \vert }{ \vert Q_\mathrm{H, E} \vert }$ $\displaystyle > \frac{ \vert W_\mathrm{R} \vert }{ \vert Q_\mathrm{H, R} \vert }$    

可逆熱機関Bは可逆でありヒートポンプとしても動作できるので、不可逆熱機関Aが周囲に受け渡す仕事と同じだけ仕事を受け取る( $\vert W_\mathrm{E}\vert = \vert W_\mathrm{R}\vert$)可逆ヒートポンプとして動作させる(図B.7-右)と次式が成り立つ。

$\displaystyle \vert Q_\mathrm{H, E} \vert$ $\displaystyle < \vert Q_\mathrm{H, R} \vert$    

熱機関とヒートポンプのエネルギーの保存式(1.22)と式(1.26)と、仕事の大きさの関係( $\vert W_\mathrm{E}\vert = \vert W_\mathrm{R}\vert$)から、

$\displaystyle \vert Q_\mathrm{L, E} \vert < \vert Q_{L, R} \vert
$

となり、図B.7-右のように周囲になにも変化を残さず、低温熱源から( $\vert Q_\mathrm{L, R} \vert - \vert Q_\mathrm{L, E} \vert $)[J]または( $\vert Q_\mathrm{H, R} \vert - \vert Q_\mathrm{H, R} \vert $)[J]を高温熱源へ伝えることが出来てしまう。よって可逆熱機関よりも効率の良い不可逆熱機関は熱力学第二法則クラウジウスの表現(2 $^{\text{p.\pageref{sec-2ndLaw}}}$)に反する。このことから可逆熱機関の効率が必ず高くなるといえる。

図 B.7: 可逆熱機関と不可逆熱機関の比較
\includegraphics[width=150mm]{figures/RevIrevEngineClausius.pdf}

不可逆熱機関Eの効率 $\eta_\mathrm{E不}$が可逆熱機関Rの効率 $\eta_\mathrm{R可}$よりも低い場合には熱力学第二法則に反することはないことを次節で示す。

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