閉じた系での可逆サイクル(カルノーサイクル)がどのような過程となるか詳しく見ていく。
可逆過程を組み合わせることで可逆サイクルの過程は成り立つが、可逆過程は実際には実現できない。例えば、熱が伝わる過程は必ず不可逆の過程となる(2.2.3節)。この実際には実現できない可逆の過程を、理想的な状況における過程として示したのが準静的過程である。準静的過程についてはすでに2.3.2節で詳細を示している。 準静的過程では考えている閉じた系と周囲との間で常に平衡が成り立っており、系の内部と周囲でもそれぞれ平衡が維持されている過程である。平衡状態は釣り合いがとれ変化をしなくなった状態であるので、可逆の現象である。しかし、平衡状態が続いても状態は変化しない。そこで平衡状態で極微小な変化をしており、その変化が無限時間続くことで平衡状態で可逆の変化が起こる、と考えるのが準静的過程である。準静的過程では周囲と常に平衡である必要があるため、熱のやりとりのある過程では等温過程しか取りえない171717平衡とは温度が一定になった状態であるので、温度が変化をしては平衡ではない。。熱のやりとりのない断熱過程での可逆変化は可逆断熱過程と呼ばれる。
可逆のサイクルの過程を、二つの熱源で動作する閉じた系において考える。可逆サイクルは全く同じ変化で、動作する向きを変えることで熱機関とヒートポンプの両方として動作できなくてはならない(熱機関を逆に動作させるとヒートポンプとして動作し、ヒートポンプを逆に動作させると熱機関として動作する)。5.2節での断熱過程と等積過程から成り立つサイクルを例に考えてみる。このサイクルを熱機関として動作させた場合とヒートポンプとして動作させた場合の温度変化は、図5.11と図5.22であり、まとめて書くと図5.27のようになる。また、熱機関とヒートポンプの熱源との温度の関係を図5.28に示す。図5.27と図5.28中の過程の番号は対応している。 図5.27、図5.28に示すように、熱機関は高温熱源から熱を受け取り低温熱源に熱を与えるため、高温熱源側ではサイクルは高温熱源よりも温度が低く、低温熱源側では低温熱源よりも温度が高くならなくてはならない。また、ヒートポンプでは高温熱源へ熱を与え低温熱源から熱を受け取るため、高温熱源側ではサイクルは高温熱源よりも温度が高く、低温熱源側では低温熱源よりも温度が低くならなくてはならない。
可逆のサイクルでは、全ての過程を逆向きにも動作させることができなくてはいけないが、熱源との温度の関係が熱機関とヒートポンプでは異なる。高温熱源よりもサイクルの温度が高い場合、熱機関として動作した際に熱源から熱を受け取ることが出来ない(図5.27の過程4→3)。また、高温熱源よりもサイクルの温度が低い場合、ヒートポンプとして動作した際に熱源に熱を与えることが出来ない(図5.27の過程3→4)。そのため図5.29の過程3→4のようにサイクルが熱源と同じ温度で、熱機関では高温熱源から熱を受け取り、ヒートポンプでは同じ高温熱源へ熱を与える過程を考えなくてはいけない。つまり可逆のサイクルとなるためには図5.27の熱機関の線とヒートポンプの線が重ならなくてはいけない。準静的過程で状態が熱平衡のまま限りなくゆっくり変化すれば、この熱のやりとりが可能である。 このことから、可逆サイクルでは、高温熱源と低温熱源との熱交換する過程1→2と過程3→4は準静等温過程でなくてはならない。熱源と熱のやりとりをすると準静等温過程以外では不可逆となるため、温度の変わる過程である図5.29の過程2→3と過程4→1での過程は熱のやりとりのない断熱過程である必要がある。 閉じた系での可逆過程は可逆断熱過程と準静等温過程のみである。
以上から、二つの熱源で動作する閉じた系での可逆サイクルは準静等温過程→可逆断熱過程→準静等温過程→可逆断熱過程で構成することができる。この可逆サイクルをカルノーサイクルと呼ぶ。
問題をいくつか示す。
高温熱源と熱のやり取りをしている過程でのサイクルの温度と高温熱源の温度の大小関係および、低温熱源と熱のやり取りをしている過程でのサイクルの温度と低温熱源の温度の大小関係を、熱機関、ヒートポンプ、可逆サイクル(カルノーサイクル)のそれぞれで示せ。
単一温度の熱源と熱のやり取りをする過程で可逆となる過程を挙げよ。
熱のやり取りの無い過程で可逆となる過程を挙げよ。
可逆サイクル(カルノーサイクル)を構成する過程を挙げよ。
不可逆過程で発生している不可逆損失の例を挙げよ。
可逆サイクル(カルノーサイクル)は理想的なサイクルであるが、実際に作る際に実現が難しい点を挙げよ。また、その難しい点を可能な限り可逆に近づけるためにはどうすれば良いかを考えよ。